モットーは、「社会に働きかけられるような技術者」を目指すこと——メイテック立川エンジニアリングセンター 鈴木尚未氏

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エンジニアを正社員として雇用し、日本のあらゆる製造業に派遣している、株式会社メイテック 立川エンジニアリングセンターの鈴木尚未さんは、化学が専門のエンジニアとして、派遣先各社で仕事をしている。しかし大学院では「分子生物学」を専攻。「どんな経験でも無駄なものはない」という。最初の派遣先で厳しく指導されたこと、リーマンショック後の辛い経験、そこで出会った仲間たち、あらゆることを糧に、信頼を得、期待に応える。自分が目標とする姿に向かって、プロとして仕事をしている。(撮影:水戸秀一)

「乾電池の何を開発するのですか?」

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化学の仕事は泥臭い。「トライアンドエラーを繰り返してこそ新しい製品が生まれます」

——最初に携わったのはどんな仕事でしたか。

エンジニアを派遣するメイテックに就職して、最初の派遣先での仕事は電池の開発でした。電池というと今は充電と放電ができる二次電池が主流ですが、私が携わったのは放電しかできない乾電池の開発です。

——乾電池というと、既に完成されたものに思えるのですが。

私も最初はそう思って「何を開発するのですか」と聞いてしまいました。

最近はくり返し使える電池がたくさん使われるようになりましたが、乾電池が一番力を発揮するのは災害時です。乾電池に対する要求は時代に合わせて少しずつ変化し、現在は「いざという時に必ず力を発揮する」ということが求められています。

長期間保存していても十分な電気を取り出せることや、漏液による白い粉が出ないことなど、材料の開発が行われています。またできるだけ安価にするためのコスト削減など、改良の余地は尽きないのだと思います。

——そういえば、最近は白い粉を吹いた乾電池は見なくなりましたね。

漏液は私が携わったテーマの一つでもありました。白い粉は水酸化カリウムの結晶で、その水溶液はタンパク質を溶かす性質があり、目に入ると失明の危険もあります。漏液を防ぐことは、安全対策という意味でも、各メーカーが一生懸命取り組んでいるテーマだと思います。

知識がどんどん増えていく

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人を追いかけるより、自分で切り開く。「そのほうが性に合っている」

——では、現在はどのようなお仕事に携わっておられますか。

自動車メーカーにお世話になっています。いま携わっているのは、今後の市場のニーズを見越して、将来の自動車に関わる技術を検討する仕事です。機密性の高い業務です。

私の仕事上の専門は電池、電気化学、材料科学なので、自動車メーカーでの最初の仕事も、電池開発に関わる仕事でした。その後、電池の仕様などに関わるようになり、徐々に上流の仕事をさせていただくようになりました。おそらく電池や化学の知識が必要だからだろうと思っています。
現在も、今の仕事を行いながら、電池の評価などの業務も行っています。

——今のお仕事は、どのようなところが面白いですか。

私がこれまでにお世話になった中で、自動車は最も多くの方が開発に関わっている業界だと思います。社内はもちろん、社外の方ともコミュニケーションをとる必要があります。おかげで、今まで知らなかった知識がどんどん増えていく。そこはすごく面白いところだと思います。

チャレンジすることに恐れはない

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子どものころは近所に鍛冶屋さんがあり、職人さんにもあこがれたとか。

——大学院での専門は、生物系とうかがっています。

大学院では「分子生物学」を専攻していました。分子生物学というのは、生き物の細胞の中で起こっている機能や働きを、分子のレベルで解明する学問です。遺伝子が発現してタンパク質を合成するメカニズムの解明、タンパク質が糖質や脂質などの、他の物質に働きかけて生理的機能が発現するメカニズムといった、目に見えないものを日々研究していました。

——なぜ分子生物学を専攻されたのですか。

中学や高校の理科の教科書に、遺伝子発現のモデル図や、細胞分裂、光合成などの絵が描かれていましたよね。ああいう絵にあこがれて、私もこういうものを実際に見たいと思ったからです。

実は私は、数学や化学は得意ではなくて、高校生のころは化学で赤点を取っていたくらいです。でも分子生物学には、化学と物理の知識が必要で、自然と理系に流れ着きました。

——学んできた生物系の仕事でないことに抵抗はありませんでしたか。

正直なところ、入社した当時は生物学のテクノロジーに触れる仕事がしたいと思っていました。でも、最初から自分の持っていない知識を必要とされる職場だったので、チャレンジすることに対する恐れはありません。自然と「何でもやる」という風になってきたのだと思います。

どんな経験でも、必ずどこかで役に立つ

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実は自動車自体に詳しいわけではない。助手席専門のペーパードライバー。

——仕事をするうえで影響を受けた人はいますか。

最初にお世話になった派遣先の上司です。派遣社員である私も「新入社員と変わらず育てる」といってくださり、技術者としてのあり方や、仕事に対する姿勢を全部教えてくださいました。

たとえば、すべての仕事に関して「何時から何時まで、何をしたか」を書き残すこと。これは今も続けています。積み重ねることで、どの仕事がどれくらいの時間でできるのか、見積もることができるようになる。業務の効率を考えるうえで、大事なことだと思っています。

——転機となった出来事はありますか。

リーマンショックですね。景気の影響で、多くの派遣エンジニアの仲間が自社に戻ってきました。私以外にも、もっと技術力の高い人も戻ってくるという状況でした。それほど、未曽有の危機だったんだと思います。次の派遣先が決まるまでの間、みんなで自己啓発や研修をし、私は研修をまとめる仕事をしていましたが、辛かったですね。

エンジニアは、新しい技術や業務に必要な知識に対してはすごく貪欲ですが、次の派遣先が決まっていない状況では、だれもが「何を勉強するんだ、何の役に立つのか」と疑心暗鬼になる。1年半ぐらいだったと思いますが、互いに励まし合って、よくがんばったと思います。

でも、そこで出会った人たちがいるから、もっと積極的に自社に関わるようになりましたし、その間に学んだ、私自身も無駄に思えた知識が、次の派遣先での最初の仕事で役立つという経験もしました。どんな経験でも、必ずどこかで役に立つことがあると感じて、私の中では転機になりました。

期待に応えていくことがモチベーション

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少しの変化に敏感になれるよう「技術者は怖がりであれ」と上司が教えてくれた。

——仕事のやりがいを感じる点は。

派遣業は、エンジニアリングを提供するサービス業でもあると思っています。ですから、だれかの期待に応えていくのは、すごくモチベーションが上がりますね。

幸せなことに、通常なら派遣エンジニアが入り込むのは困難な仕事まで、関わらせていただいています。こういう例は、周りを見てもあまりありませんし、その期待に応えるというスタンスは、私にはとても向いているのだと思います。

——メイテックという会社に入社してよかった点は?

派遣先でストレスを感じたり、技術的に課題があるようなときに、自社に戻るとだれかが知っていたり、全然違う発想をする人がいたり、自分の悩みがだれかのかつての悩みだったりする。そういう仲間がいることは、なかなかあることではないと思います。

——ではエンジニアの仕事が、女性に向いていると感じることはありますか。

圧倒的に男性の多い仕事場で、差別の経験はありませんが、区別はあると思っています。男性とまったく同じように体力や腕力を求められても、応えられません。一方で時間をかけて丁寧に経過を観測するとか、きめ細やかさとか、ちょっとした化学反応の変化に気づくといったことは、女性のほうが、向いていると思いますし、職場でも女性をそういう仕事を就かせる傾向は強いようです。
性差というより、むしろ向き不向きの仕事があるということなのだと思います。

ただ、男性は私たちが思っている以上に、女性のことを女性であると意識しているのも事実です。たとえば男性の先輩から飲みに誘われれば、そこでたくさんのコミュニケーションがとれ、信頼関係も生まれ、技術の伝達もある。でも先輩がセクハラと受け取られることを恐れて、誘ってくれなければ、女性は教育のチャンスを逃すことになります。ですから若い時ほど、女性であることを意識させない努力が必要だと思いますし、後輩にもアドバイスしています。

一個人として判断してもらえること

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「本が好きで、何でも読む」。休みの日は1日家にこもって読書にふけることも。

——鈴木さんはどういう技術者を目指していますか。

仕事上は、私は一つのパートを担っているにすぎませんが、ある程度全体も見て、それとなくマネージメントのフォローに入ることもできるように心がけています。

また私のモットーでもありますが、自分の仕事によって、周りの人を動かし、それが伝わって大きな輪が動いて社会に働きかけられる、そういう技術者になりたいとずっと思っています。それには、何より信頼されなければなりません。信頼があるから、この仕事を任せる。それが基本だと思います。

——最後に、エンジニアを目指す女性にメッセージを。

技術に対して敏感であること、自分自身を客観的に見られること、とにかく素直であることが大事だと思います。

自分を主張することは好ましいことでもあるし、個性は生かすべきではありますが、女性の柔軟性も発揮して、男性にはできないことをする。それは女性らしくという意味ではなく、男性、女性という以前に自分らしくやること、一個人として判断してもえるようになることだと思いますし、私もそれを目標にしています。

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