人脈を広げたいと「FPGA-CAFE」を経営。そこでの経験が開発のヒントに――SUSUBOX 相部範之氏

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2012年に筑波大学発のベンチャー企業として設立され、電子回路設計を手掛けるSUSUBOX。代表を務める相部範之氏(ペンネーム:すすたわり氏)は2005年度下期に経済産業省と情報処理推進機構(IPA)から「天才プログラマー/スーパークリエータ」に認定されたエンジニアだ。

「フリー・ハードウエア実現のためのプラットフォーム」の開発の功績が評価されて認定されたわけだが、相部氏は回路構成をプログラム可能なLSIであるFPGA(Field Programmable Gate Array)の設計情報(IP)をオープンソースとして開発・公開する“フリー・ハードウエア”プロジェクト「SUSUBOX Project」を推進してきた。

同プロジェクトによって、電子回路開発のコスト削減と期日の短縮に大きく貢献。その後相部氏はSUSUBOXを社名として、さらに自社開発のFPGAモジュラーシステム「Karimon System」を組み合わせた受託開発に取り組んでいる。

Karimon SystemはFPGAやMCUが搭載されたメインのモジュール基板と、さまざまなI/O(入力/出力)インターフェースが搭載されたサブモジュール基板から構成されている。サブモジュールは数十種類以上あり、これらの組み合わせでさまざまなI/Oインターフェースを持つ回路を構成可能にした。

これにより数万通りの組み合わせで顧客のニーズに合った基板を構築できるため、従来のように最初から基板を製造する場合に比べて大幅なコストの低減と開発機関の短縮を実現するのだ。

こうした活動のほかに、相部氏は慶應義塾大学の特任講師を勤めながら、次世代の製造装置に関する研究開発にも力も注いでいるという。

さらに「FPGA-CAFE」というカフェの運営も手掛ける。このカフェはSUSUBOXの原点であるオープンソースコミュニティづくりの活動拠点。個人では使うことが難しい3Dプリンタやレーザーカッタなどの工作機械をシェアし、利用者が自由にものづくりを楽しめる場を提供している。(撮影:水戸 秀一)

人とのつながりを広げたい。ファブラボのオーナーに

――FPGAエンジニアとしての顔の他に、ファブラボのオーナーとしての顔もお持ちなんですね。

もともとは、筑波大学の大学院・博士課程にいたとき、大学の研究室で私が開発したFPGA関連技術の製品化を目指し、大学発のベンチャー企業設立を前提にした3年間のプロジェクト(JST若手研究者ベンチャー創出推進事業)に採択されました。

そのときはFPGAのラピッドプロトタイプ向け製品として、主にメーカーの中での試作や、評価実験用のテスト治具として使える基板を開発していました。

SUSUBOX代表取締役/工学博士 相部範之氏

SUSUBOX代表取締役/工学博士 相部範之氏

ただ、当時の仕事の進め方は、客先を1件1件回って仕事を受託していくスタイル。特に営業面について、私1人の力だけでやっていくのが難しかったので、「もう少し変わった形で、効率的に人とのつながりを広げられないか」と考えるようになりました。FPGA-CAFEを2010年にオープンしたのには、そんな背景があります。

FPGA-CAFEは当初、自社製品のアンテナショップという位置付けだったのですが、翌2011年からFPGA- CAFE/FabLab Tsukubaというダブルネームにしたこともあり、いろいろな業種の方が足を運んでくれるようになりました。電子回路設計関係者だけでなく、機械、建築、デザインなどを仕事にしている方や、つくばという土地柄もあって、企業だけでなく大学や研究所の方が利用されています。

FPGA-CAFEのおかげで、さまざまな分野の方々と交流できるようになりました。人脈を広げられたことの意義は大きいです。その後、現在の会社(SUSUBOX)を2012年に設立するのですが、FPGA-CAFEによって得られた経験がさまざまな場面で役立っていると感じています。

これ1台あれば、ある程度の電子機器を作れる。「ファブリケータ」を開発中

――現在の具体的な業務内容について教えてください。

現在の仕事は、受託開発がメインです。年間の売上もまだ規模的に小さいことから、2015年4月からは慶應義塾大学の特任講師(大学院 政策・メディア研究科)となり、週の半分は大学のプロジェクトに携わっています。

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今やっているのは3Dプリンタや、チップマウンタなどを複合させた「FABRICATOR」というファブラボで使われることを想定した製造装置の開発です。「これ1台あれば、ある程度の電子機器を数分で作れるようになる」という装置です。

FABRICATORの開発は、文科省の「Center of Innovation」(COI)プログラムという5~7年ほどの長期プロジェクトの下で進めていまして、装置の開発から製品化までを手掛けることになります。また、これには以前から筑波大学の安永研究室で進めてきた FPGAによる画像認識技術も組み込む予定です。製品化の目標として、300万円前後で販売できるようにしたいと考えています。

――イメージとしては、外装の中に入る基板も作製できる装置になるのでしょうか?

そうですね、外装も基板も作製できるようにしたいと思っています。

ただ、例えばコピーとFAXが合わさった複合機のような製品がありますが、「1台で何でもできる複合機ですべて作業するのと、コピーとFAXとスキャナーをそれぞれ単体で使い分けるのと、どちらが使いやすいか」と考えると、どちらがいいとは断言できませんよね。

開発中のファブリケータも複合機と同様で、1台で何でもできる点には魅力があるのだけれど、どれも機能が中途半端で使いづらい装置になってしまうのは避けたいです。何でもできる“複合機”がいいのか、外装か基板かに特化して今までよりも使いやすい装置を目指した方がいいのか、検討しているところです。

そのように考えるようになったのも、FPGA-CAFEでの経験があったからです。FPGA-CAFEではあまり3Dプリンタは使われていなくて、実は9割の人がレーザー加工機を使っているのです。

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レーザー加工機で可能なのは、彫刻や平面加工くらい。できることは今までの工作機械とほとんど変わりません。にもかかわらず、なぜ9割の人がレーザー加工機を使うのかと調べてみたら、「使うのがすごく簡単だから」ということが分かりました。

そうした手軽さ・使いやすさも考慮して製品を考える必要がある。FPGA-CAFEでの経験から、そう考えるようになりました。

FPGAをもっと実用的にするために。ライブラリの整備、役割の明確化を意識

――SUSUBOXで手掛けているFPGA製品について、特徴を教えてください。

一般的なFPGA基板を製品に利用しようと思っても多くの方にとってはまだ敷居が高いのが現状で、そう簡単には回路設計ができません。そこで、IPコア化してなるべくライブラリみたいな形で呼び出して使えるような状況を整えていきたいと考えています。もちろんメーカー 製のIPコアは従来からもたくさん ありますが、オープンソース化したものをもっと充実させたいと考えているのです。

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SUSUBOXで開発中のFPGA

ArduinoやRaspberry Pi、ARM系の基板など、主に組み込みソフトウエ ア開発者の間でよく使われているものをベースにして、そのコプロセッサみたいな位置付けを狙っています。

ボードについても、ATmegaの8ビットMPUだと処理しきれないフロントエンドの部分だけをFPGAでやればいいと考えています。ユーザインターフェースやUSBでつなぐところはFPGAを使うより、むしろ一般的なマイコンで標準のライブラリを使ってやる方が簡単なのです。

学生時代はMPUなどもすべ てFPGAで作り、いわゆるSoC化することに興味のあった時期もあります。しかし、例えばスーパースカラなどを持つ本格的なMPUを実装するとなると、回路規模がかなり大きくなって、他の回路が入らなくなります。FPGAの消費電力や価格なども考えると、マイコンは一般的なものをそのまま使う方が結果的に良いということが多いのです。

そのようにFPGAでやるべきところ、他のものでやるべきところを整理して、最適な設計を導き出せるように努めています。

電子工作から興味を持ち、エンジニアを目指すように

――もともと、どんな動機からエンジニアを志すようになったのでしょうか?

小学生のころ、電子工作の教室に通っていました。そこでははんだごてなども使って、小学生のお小遣い1カ月分ほどで買えるくらいの電子工作キットを組み立てて楽しんでいました。

小学3年生の時には、夏休みの自由研究テーマを電子工作にしましたね。そのころからぼんやりと、「将来はエンジニアになろう」と思い描くようになりました。

一時期は、建築にも興味を持ちました。ですが、大学進学時に「やはり好きな電子回路が学べるところに進もう」と考え、電子科がある大学を選びました。

大学在学中は理化学研究所の脳科学センターで、脳のアルゴリズムを研究するプロジェクトに携わっていました。そこでFPGAに出会ったというわけです。

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住まいは六畳一間でいいから、高性能測定器など、心躍る装置に囲まれたい

――今後のご自身の方向性や将来展望をお聞かせください。

博士課程に進んだときは、大学で教鞭をとる道も考えましたが、今はエンジニアリングという現在の路線を追求したいと考えています。

それは主に論文を書くよりは、ものづくりをしている方が楽しいですし、その方が向いていると思うためです。

ただ、今悩んでいるのが、エンジニアリングだけで生計を立てていくには会社をどこまで大きくした方がいいのかということ。例えば社員5人ぐらいの規模の会社を目指して少数精鋭でやっていくのか、数百人規模の会社を目指して大きくしていった方がいいのか、すごく悩ましいです。

ただ、チャンスがあれば上場を目指すような会社にしても面白いと思っています。そのためには私は経営のプロではないので、会社経営を任せられるパートナーが必要だと周りの人たちからも言われています。

とはいえ、お金持ちになることを夢見ているわけではありません。庭にプールがあるような豪邸には全然興味がなくて、六畳一間でもいい。その代わりに無駄に精度の高い測定器に囲まれているとか、エンジニアとして心躍るような環境に身を置いていたいです。

“FPGA設計者”を名乗りたいなら、アルゴリズムの理解もゲートの理解も必要に

――最後に、FPGA開発に携わるエンジニアがこれから持っておくべき知識・スキルなどについて、アドバイスをお願いします。

1つはアルゴリズム設計ができることです。かつ、ハードウエ アのかなり低レイヤーのフリップ・フロップの動作とか、ANDゲートやORゲートのようなゲートレベルでの動作にも対応できることが重要です。アルゴリズム設計と低レイヤーの動作、どちらかだけにしか対応できないエンジニアでは、今後、生き残っていくのは厳しいかもしれません。

というのも現在は、「アルゴリズムはできるけどゲートとの関係はよく分からない」というエンジニアが増えているように思います。それが理由で、私の著書の『FPGA入門 -回路図とHDLによるディジタル回路設計-』(秀和システム)では、今時にしてはめずらしく、ゲートレベルについてより詳しく説明するようにしました。従ってこの書籍は実用書というより、このゲートレベルでの動作を理解するための教科書です。

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そのような背景があって、私はあまり高級言語だけでシステム全体の回路設計をすることをお勧めしていません。例えば画像認識部の設計で、OpenCVで作られているものをコンパイルし直しても、とりあえずは動くとは思います。けれど、多くの場合、満足の行く性能を実現できません。これは元々逐次型のMPU向けに書かれたプログラムを、並列型のFPGAで動作するように無理やり変換しているためです。FPGAの性能を最大限に生 かすには、元のアルゴリズムからFPGAの演算粒度に合わせて並列動作するように考え直す必要があります。

FPGA設計では、アルゴリズムのこともゲートのことも理解していることが求められ、低レイヤーから高レイヤーまで、対応できる能力が必要になるということです。逆に言えば、FPGA設計では上から下までのつな がりを理解できるので、エンジニアリングとしてはとても楽しいです。

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