リチウム・イオン電池の次、リチウム・空気電池の欠点を解消する「リチウム・酸素電池」をMITなどが開発

「ナノリチアカソード電池」と呼ばれる新型のリチウム・酸素電池が、MITやアルゴンヌ国立研究所、北京大学の共同研究チームによって開発された。

現在、広く使われているリチウム・イオン電池よりも大容量になると期待されているのがリチウム・空気電池だ。重量の割に大きなエネルギー出力を供給できる可能性があり、電気自動車や携帯用電子機器にとって、非常に有望な技術であると考えられている。

今回発表されたナノリチアカソード電池は、そんなリチウム・空気電池に比べて、充放電サイクルにおける熱放出によるエネルギー損失が5分の1程度に低減され、電池としての使用寿命を大幅に改善できる。その内容は7月25日、「Nature Energy」でオンライン公開されている。

ただし、リチウム・空気電池には、注入されたエネルギーの多くを熱として無駄に費やしてしまい、比較的早く劣化するというかなり重大な欠点がある。さらにリチウム・空気電池には、外気との間で、酸素を供給・排出するための高価な装置が必要となる。

新しく開発されたナノリチアカソード電池は、このようなリチウム・空気電池の欠点を克服したものだ。研究チームのMIT原子力科学工学科Ju Li教授によると、従来のリチウム・空気電池の出力電圧は、充電に用いられる電圧よりも1.2ボルト以上も低い。つまり、充電時に電気エネルギーの30%が熱として無駄に放出していることになる。

従来型のリチウム・空気電池では、放電サイクル中に外気から酸素を取り込んで電池のリチウムとの化学反応を誘起し、充電サイクル時の逆反応中に再び酸素を大気中に放出する。一方、ナノリチアカソード電池では、充放電中にリチウム・酸素間で同様の電気化学反応が起きるが、その際に酸素が気体の状態に戻ることはない。酸素は、ガラス状に混ざり合ったLi2O、Li2O2、LiO2という固体化合物間でやり取りされるだけだ。

これにより、電圧損失は1.2Vから0.24Vと5分の1程度に低減される。熱として無駄に放出されるのは、電気エネルギーの8%ほどとなる。

寿命を大幅に縮めるリチウム・空気電池の別の問題も解消

ナノリチアカソード電池のポイントとなるのは、ガラス状態でリチウムと酸素を含み、酸化コバルトのマトリックスに保持されるナノメーター・スケールの微粒子ナノリチアだ。この微粒子を利用したLi2O、Li2O2、LiO2の間の酸素のやり取りは、完全に固体状態において生じることになる。

固体間で酸素をやり取りするという手法には、別の効果もある。充放電時の化学反応によって酸素が気体や固体に変化することで、物質の体積が大きく変動して構造内の導電パスを損傷し、寿命を大幅に短くしてしまうというリチウム・空気電池の別の問題を克服するのにも有効なのだ。

ナノリチアカソード電池を使って充放電サイクル試験を120回繰り返したところ、能力損失は2%未満にとどまり、新型電池の寿命が長いことが示された。

大掛かりな補助システムも不要。リチウム・イオン電池の代わりにそのまま利用可能

新型のナノリチアカソード電池には、外気との間で酸素を供給・排出する必要がないという利点もある。従来型のリチウム・空気電池のように、電池の寿命に有害な湿気と二酸化炭素を外気から取り除く大掛かりな補助システムが不要になる。

そして、この新しい電池は、従来の固体リチウム・イオン電池と同じように取り付けて使用することができる。自動車や電子機器、さらにはグリッド規模の電力貯蔵設備まで、従来設計を用いたまま既存のインフラに設置することが可能だという。

ナノリチアカソード電池のカソードは、従来型のリチウム・イオン電池カソードよりもずっと軽いため、従来比で重量当たり2倍程度のエネルギーを蓄えることができるという。

Li教授によれば、この電池は高価な部品や材料を使用せず、電解液として用いる炭酸塩も最も安価な種類の電解液だ。全体として、従来のリチウム・空気電池と比べ、スケールアップが容易で、より安価でより安全な電池になるとうたっている。

チームは1年以内に、この実験室規模で実証されたコンセプトを、実用的なプロトタイプへと進める考えだ。

関連リンク

New lithium-oxygen battery greatly improves energy efficiency, longevity

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