燃料電池コストを劇的に削減可能――高効率ナノアロイ触媒の開発に成功

真空チャンバー内のスパッタリングで、白金(グレー色)とイットリウム(青色)からナノアロイ薄膜を作る。この薄膜が燃料電池の触媒となり、「酸素(赤色)+プロトン(白色)→水」の化学反応を比較的低い温度でも効率的に促進し、電気を生成する。

チャルマース工科大学とデンマーク工科大学の研究チームが、純白金の10倍も効率が高い、燃料電池用ナノアロイ触媒の開発に成功した。燃料電池において必要不可欠とされていた貴金属である白金の必要量を著しく低減することができ、燃料電池車(FCV:Fuel Cell Vehicle)の普及にとって大きなブレークスルーになる可能性がある。研究成果は、5月22日の『Advanced Materials Interface』誌に公開されている。

走行中に二酸化炭素を排出しないFCVは、EVと並ぶ次世代型自動車として多くの自動車メーカーが開発にしのぎを削っている。しかし、FCVの普及を妨げる大きな課題の1つに、酸素と水素から水と電気エネルギーを取り出す反応を比較的低い温度で促進するためには、高価な白金を触媒として多量に使用する必要があり、燃料電池のコストが下げられないという問題がある。

両大学の研究チームは、白金とイットリウムから構成されるナノアロイ薄膜を作り出す新たな製造方法を発見し、それが高い触媒効果を持つことを明らかにした。「このナノアロイ触媒を使えば、酸素と水素の化学反応を促進するための白金の使用量を減らすことができる。これにより、燃料電池に必要な白金の量を70%も削減できる」と、チャルマース工科大学物理学科の研究者であるBjon Wickman氏は説明する。

これまでも白金をイットリウムと混合する利点は知られていたが、イットリウムは容易に酸化してしまうため、触媒としての実用化は困難とされていた。研究チームは、真空チャンバー内でターゲット金属にイオンを衝突させて金属薄膜を製造するスパッタリングと呼ばれる手法を用い、白金とイットリウムによるナノアロイ薄膜を作り出した。そして、このナノアロイが触媒として純白金の10倍も高い効率をもつことを明らかにした。

このナノアロイ触媒による燃料電池が実現できれば、白金の使用量を現在の数十グラムから数グラムにまで大幅に削減することができる。これは一般の乗用車に搭載されている排ガス浄化装置に使用されている白金の量と同程度だ。この新しい触媒を利用するためには燃料電池の設計を一部見直す必要があるが、それを差し引いても白金使用量の削減効果は非常に大きいと期待できるという。

研究チームのチャルマース工科大学物理学科のNiklas Lindahl氏は、「燃料電池は、輸送分野や携帯型デバイス分野で、持続可能なエネルギーとして大きな潜在能力を持っている。この技術を使うことで、貴重な資源を有効活用し、環境を守りながらコストも削減できる」と、この発明の意義を説明している。

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Nanoalloys ten times as effective as pure platinum in fuel cells

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