東大と広島大、キャリア数がグラフェンの100倍以上の単原子導電性シートを発見

「ディラック線」を有する新しいディラック物質の銅シリサイド(Cu2Si)単原子シートの模式図

東京大学物性研究所の松田巌准教授や広島大学のBaojie Feng助教らによる研究グループは2017年10月18日、銅(Cu)とケイ素(Si)からなる化合物の単原子シート、銅シリサイド(Cu2Si)を合成し、その中に「ディラック線」が存在することを発見したと発表した。このシートは電気伝導を担うキャリア数がグラフェンの100倍以上あり、導電性シートとして次世代エレクトロニクス向上への寄与が期待される。

厚さが原子1層分である単原子シートは、炭素の場合「グラフェン」として知られ、応用研究が勧められている。グラフェンには「ディラック点」という特殊な電子状態が存在し、電子があたかも質量がない粒子のように物質中を高速移動するため、革新的エレクトロニクス材料として注目されている。ディラック点に類似した特殊な電子状態が他の物質による単原子シートに存在すれば、さらに新しい動作原理に基づく高速エレクトロニクスにつながる可能性がある。こうした物質は「ディラック物質」と呼ばれ期待されている。

今回、同研究グループでは、新材料として「銅シリサイド(Cu2Si)の単原子シート」を銅単結晶基板の上に合成することに成功。その電子状態をイタリアELETTRA研究所と広島大学放射光科学研究センターの放射光を利用した光電子分光法(光の照射により放出させた電子を分析する方法)によって直接観測し、その結果を第一原理計算で解析を行った。

その結果、同シートは「ディラック線」を有した2次元ディラック物質であることが明らかになり、その性質は銅シリサイドが持つ固有の対称性によって生じている可能性が高いことがわかった。ディラック線はディラック点が線状に並んだもので、最近世界中で発見されているが、いずれもこれまで3次元結晶の報告に限られており、単原子シートでの発見は今回が初めてだという。

さらに、光電子分光から得られた結果を用いて、同シートにおける電気伝導を担う電子であるキャリア密度を評価したところ1016個/cm2であることが判明。グラフェンの100倍以上の値となった。

今回の成果は、新たに「ディラック線」を持つ単原子シートを発見したことで、次世代材料として注目されている単原子シートのディラック物質に新しい設計指針を提供するものとなる。またこの新材料は銅とシリコンという安価な元素から構成されており、今後、ディラック物質の工業利用への新しい展開が期待されるという。

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