京大、観測により量子多体状態を制御する技術を確立

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各格子点に1つずつ整列させた原子(左)は、隣の格子点へと移動すると分子を形成し(中央)、その後直ちに崩壊して環境へと飛び出す(右)。隣の格子点への移動を常に「見られている」ために、移動ができない。

京都大学は2017年12月25日、周囲の環境との相互作用によるエネルギーや粒子の出入り(散逸)が量子相転移に与える影響を観測することに、世界で初めて成功したと発表した。「見られている」という観測の効果が、巨視的な量子現象に対して影響を与えうることを明らかにするものだ。

電子のような量子力学に従う粒子が多数集まり相互作用している系を量子多体系といい、そこで起こる物理現象の解明は物質の性質を理解する上で重要だ。近年、極低温の希薄な原子気体を、レーザー光を組み合わせて作る光格子という構造の中に閉じ込めて金属中の電子と似た量子多体系を実現し、その性質を解明する実験が注目されている。

光格子に捕獲された原子集団は周りの環境から孤立しているためその影響を受けない。一方、実際の物質では、周囲の環境と相互作用する散逸の影響で容易に状態が変わってしまう。このため、量子多体系に対して散逸が及ぼす影響を明らかにすることは、物質中での物理現象の理解や量子技術を用いたデバイスの開発にとって重要となる。

今回の研究では、「モット絶縁体-超流動相転移」と呼ばれる量子相転移に対して、制御性の高い散逸を人工的に導入し、その影響を調べた。量子相転移とは、圧力や磁場などを変化させた際に量子力学的なゆらぎにより物質の状態が異なる状態へと変わる現象だ。「モット絶縁体-超流動相転移」では、光格子の深さを浅くすると相転移を起こして超流動状態となる。また散逸の導入には、レーザー光を照射して2つの原子を結合させ人工的に分子を作る光会合という技術を用いている。

実験の結果、光会合光による強い散逸を導入した場合には、モット絶縁体状態から超流動状態への相転移が散逸によって妨げられ、超流動状態への変化に遅れが見られることがわかった。これは、観測を頻繁に行うと量子力学的なダイナミクスが抑えられる、「見られていると動けなくなる」という量子力学特有の奇妙な現象(量子ゼノ効果)で説明できる。光格子中の原子集団は、2重占有ができているかを光会合によって常に観測されている状態となることで、隣の格子点に原子が飛び移って同じ格子点に2つ原子が同席するプロセスが起こりにくくなる。この結果、超流動状態へと移りにくくなると考えられる。

物質中で起きる複雑な物理現象を、人工的に作成した制御性の高い別のシステムによりシミュレートする今回のような実験は、量子シミュレーションと呼ばれる。今回の研究は、散逸を適切に導入することで量子多体状態を制御する基本的な技術を確立し、量子シミュレーション実験の範囲を散逸のある量子多体系にまで拡張するものだという。

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