無電力で長期間のデータ保存が可能――有機薄膜を使った「メモリスター」の開発に成功

新しいメモリスターの電気的応答の測定ステーション(左:機器の全容、右:デバイス接合の拡大)。トンネル接合が、基板上の薄膜フィルムに形成されている。

フィンランドのアールト大学の研究チームは、厚さ数nmの有機薄膜による強誘電体トンネル接合の作成に成功した。低電圧で作動し、電力なしにデータを10年以上も保存できることから、大量のデータ処理を必要とする、将来のIoTやニューロモーフィックコンピューターに活用できると期待される。研究成果は、2017年11月27日の『Advanced Functional Materials』誌に公開されている。

IoTが本格的に普及するに従い、爆発的に増加するデータを処理できる素子やチップの開発が急務となっている。特にチップの数nmレベルへの小型化、大量のデータの解析・保存のためのエネルギーの大幅な削減が、大きな課題となる。

今回アールト大学の研究チームは、強誘電ポリマーとして知られるP(VDF-TrFE)共重合体を用いて、厚さ数nmの薄膜からなる強誘電体トンネル接合を作成。大きなON/OFF抵抗比を持つスイッチング性能と、5V以下の低電圧作動、そして電力なしにデータを長時間保存できることを見出した。

従来の金属酸化物を使った強誘電体トンネル接合は、製造に700℃の高温と高真空が必要で、環境有害性を持つ鉛を含んでいる。今回開発された有機薄膜によるトンネル接合は、スピンコート法など汎用的なプロセスで製造することができる。このため、常温の空気中で製造でき、毒性重金属廃棄物の量も低減できるものだ。

この強誘電体薄膜素子の特徴として、0/1の2値だけでなく、その中間の値でもスイッチングできる点がある。つまり脳と同じように僅かなエネルギーで情報を長期間保持でき、電源をオン/オフしたとしても以前の情報を保持できることを意味する。これは、過去に流れた電流を記憶する「第4の回路素子」と呼ばれる「メモリスター」を、有機薄膜で実現したものと言えるだろう。

アカデミーフェローであるSayani Majumdar氏は、「この新たなメモリスターは既存の素子を超える性能を示しており、エネルギー効率の高いニューロモーフィックコンピューターの可能性も示唆している」とし、「何百万のトンネル接合を1平方センチのネットワークに組み込むことができれば、画像認識やパターン認識のような複雑なタスクと自律的な意思決定を実行できるだろう」と、この新たな素子がもたらす可能性に言及している。

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Making the Internet of Things possible with a new breed of “memristors”

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