OIST、タンパク質を1分子ずつ長時間追跡することに成功――細胞が動く仕組みを解明

接着斑におけるタンパク質の集合を示す模式図。 インテグリンは、細胞骨格(白黒の連珠状構造)と細胞外基質分子(緑のねじったリボン様構造)をつなぐ。

沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究者らは2018年4月3日、細胞内のタンパク質の動きを1分子ずつ長時間追跡する新技術を開発し、細胞が動く仕組みを解明したと発表した。

細胞は、細胞を外界から隔てる働きを持つ細胞膜で囲まれている。細胞膜は液体で構成され、細胞膜内ではタンパク質分子が細胞の外からやって来たメッセージ物質のシグナルを細胞内部に伝達している。

同大学の楠見教授らの研究グループは、さまざまなタンパク質分子が細胞膜内をどのように動いたり、互いに結合するのかを理解しようと試みた。細胞膜中の個々のタンパク質分子に蛍光分子で標識を付け、分子の動きを自家製の1分子観察蛍光顕微鏡で撮影して追跡するSFMIという方法を開発してきた。

SFMIの装置を制御してタンパク質の動きを観察するOISTの角山貴昭技術員

多数の蛍光標識分子を1分子ずつ追跡するために研究グループが組み立てた顕微鏡

しかしSFMIでは顕微鏡下で観察を続けると蛍光分子が発光しなくなる光退色と呼ばれる現象が起こり、1個の分子を追跡できる時間は10秒未満という問題があった。

同グループは今回、細胞を生体内と同程度の低酸素濃度の中に置き、特殊な化学物質を添加することで、細胞に悪影響を及ぼすことなく個々の蛍光分子の連続観察時間を400秒まで伸ばすことに成功した。


左の動画は通常の観察法、右のビデオは新しく開発した方法を用いた場合で、左の動画では見えている分子数が急激に減少するが、右の動画でははるかに緩やかに減少する。

この手法を用いて、同グループは細胞の足に当たる接着斑という細胞膜を研究。特に接着斑の領域に存在するインテグリンという膜分子の挙動を調べた。インテグリンは細胞骨格と細胞外基質を結合する細胞膜分子で、従来は接着斑の中でしっかりと固定されていると考えられてきた。

しかし追跡を行うと、インテグリン分子が何度も接着斑の中で動いたり止まったりし、さらには1つの接着斑から別の接着斑へ移動する現象も確認された。インテグリン分子は結合できるポイントを探して拡散運動をし、そのようなポイントを見つけると一時的に結合する。結合が安定ならインテグリンはその地点をしっかりつかんで細胞を引き寄せ、それによって細胞は動くという。


青色は接着斑で、緑の輝点は1分子のインテグリン。動画は実時間の6倍速で再生されている。黄色の線はインテグリン分子の軌跡を表している。この分子は拡散運動に加え、ときどき一時停止する。これを一時停留(TALL)と表示している。この分子はその後、接着斑から出て細胞膜上を動き回った後、一時停留した。一般細胞膜上での一時停留は接着斑内のときよりも短い。さらにその後、この分子は別の接着斑に入り、再び長い一時停留を示した。

ガン細胞も転移するときは接着斑を使うことが発見されている。接着斑を構成する分子の動きが分かれば、ガン細胞の体内での移動を阻止する薬剤の開発の一助になるという。

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