真空の謎に迫る精密実験始動――理研らがパイ中間子原子の大量生成に成功

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理化学研究所(理研)は2018年4月13日、奈良女子大学や鳥取大学らと共同で、「パイ中間子原子」を、従来の数十倍の時間効率で大量生成することに成功したと発表した。パイ中間子原子の精密測定は、宇宙創生直後における「真空」の変化を解き明かす鍵となるという。

物質の質量の大部分を占める陽子や中性子は、三つのクォークから構成されている。しかし、陽子や中性子は、クォーク質量の和の約100倍も重い。この謎の答えとして、ノーベル物理学賞受賞者である南部陽一郎博士は、真空にはクォークと反クォークが対となって凝縮しており、それがクォークにまとわりつくことで、陽子や中性子が100倍も重くなったと考えた。

陽子とクォークの質量の違い

そのクォーク凝縮の存在を実証する手段として、クォーク凝縮が存在しなかった宇宙創生直後と同様な高密度である原子核内部を調べる方法が挙げられる。その一つが、パイ中間子原子の精密測定だ。パイ中間子原子では、電子の代わりに「パイ中間子」という粒子が原子核を周回し、パイ中間子は原子核表面をこするような軌道をとる。このとき、パイ中間子が受ける反発力がクォーク凝縮の量と関係を持つため、パイ中間子と原子核の束縛エネルギーの精密測定から、原子核内部のクォーク凝縮の量を計算できる。

普通の原子とパイ中間子原子の比較

しかしこれまでの実験では、パイ中間子原子の生成数が低く、少なくとも数週間単位の実験が必要だった。

パイ中間子原子の生成反応

研究グループは今回、理研の重イオン加速器施設「RIビームファクトリー(RIBF)」を使用し、大強度の重陽子ビームをスズ標的に照射することで、パイ中間子原子を生成した。そして、約15時間という短い測定時間で、従来の数週間分に匹敵する約2万個のパイ中間子原子のデータを得ることに成功した。また、パイ中間子原子のエネルギースペクトルの測定に成功し、パイ中間子が1s軌道、2p軌道に束縛されたパイ中間子原子を測定することにも成功した。

パイ中間子原子のエネルギースペクトル

この成果は、パイ中間子原子の生成メカニズムをより詳細に理解することにつながるという。また、次のステップとして、複数のスズ同位体を標的とした実験を計画しているという。それにより、原子核内のクォーク凝縮の減少率を高精度で決定するとしている。

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