北大など、量子化学計算と実験実証を組み合わせ高性能なキラル触媒を開発

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北海道大学は2018年6月13日、同大学の伊藤肇教授らによる研究グループが、工業的に重要な脂肪族末端アルケンの新しい反応の開発に関して、コンピューターによる量子化学計算と実験実証を多段階で繰り返し行うことで、キラル触媒の心臓部となるキラルリン配位子の合理的設計に成功し、高性能なキラル触媒を開発できたと発表した。

新しい化学反応や触媒の設計は現代の科学でも容易ではなく、高性能な触媒の開発には実験的なトライアンドエラーを繰り返す必要がある。一方、コンピューターによる量子化学計算が発展し、既存の化学反応や触媒が働くメカニズムをかなり解明できるようになったが、新しい反応の合理的設計に用いるのは困難だった。

今回、同研究グループでは、量子化学計算を活用した新しいキラル触媒の開発と、その心臓部である高性能なキラルリン配位子の設計を目指して研究を行った。キラル触媒とは、互いに鏡像の関係にある構造を持ち生体への作用が通常異なる2種の化合物(光学活性化合物)を合成できる触媒だ。

触媒反応としては、脂肪族末端アルケンに対する、マルコフニコフ型不斉ホウ素化反応と呼ばれる反応の開発をターゲットとした。脂肪族末端アルケンのヒドロホウ素化反応(二重結合に対してホウ素を導入する化学反応)は、1950年代に開発されたが、脂肪族末端アルケンの2つの炭素原子のうち、内部側にホウ素原子が導入される反応(マルコフニコフ選択性)は難易度が高く、開発例がほとんどなかった。

伊藤教授らは2016年にマルコフニコフ型ホウ素化反応の開発を報告したが、光学活性化合物の2つの型(右手型と左手側)のうちどちらか一方を選択的に得ることには成功していなかった。この問題の解決のためには、新しいキラル触媒の開発が必須で、そのためにはさらにその心臓部となる光学活性(キラル)リン配位子の適切な設計と合成が重要となる。

今回の研究では、最適な配位子を見つける効率の良い方法として、まず触媒反応に対する量子化学計算で解析し重要構造(遷移状態)を見つけ、そこから選択性に重要な特徴を抽出し、特徴を強化した新たな配位子を合成して触媒反応の実験を行う、という段階を繰り返し、配位子とキラル触媒の最適化を行った。その結果、目的化合物と不要な副生成物の比は最終的に99.5:0.5となり、副生成物がほとんど生じなくなった。

今回の研究を通じ、キラル触媒開発に計算科学をうまく活用することで効率よく触媒の性能を向上できることが明確に示された。また、元になったヒドロホウ素化反応の開発からほぼ60年達成できなかった脂肪族末端アルケンの高選択的な不斉ホウ素化に成功した。さらに、複雑な構造を持つ光学活性リン配位子を計算科学の方法を用いて合理的に設計することができた。

この成果を利用すれば、工業的に得られる安価な混合物から効率よく医薬品原料を製造でき、医薬品のコストダウンにつながることも期待できるという。

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