立命館大学、建設現場の生産性・安全性向上のためスマートウェアによるIoTシステムの実証実験を開始

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立命館大学は2018年6月21日、ウェアラブルデバイスによるIoT技術を活用した建設現場での生産性・安全性向上を実現するシステムについて紹介するプレスセミナーを開催した。

本プロジェクトは、国土交通省平成29年度建設技術研究開発助成制度「政策課題解決型技術開発公募」において「建設現場におけるスマートウェアを用いた安心・安全及び生産性向上IoTシステムの開発」として採択されたもの。当日のスピーカーは、プロジェクトリーダーである立命館大学テクノロジー・マネジメント研究科の児玉耕太准教授と、東京理科大学理工学部講師小林和博氏だ。

作業中の死亡者数や熱中症の発生数は約3割が建設業だという

少子高齢化によって熟練作業員が減り、事故率も上昇傾向に

最初に登壇した児玉准教授は、建設業界がきつい・汚い・危険の3Kと呼ばれている職場であることに触れた。建設現場における生産性・安全性を課題とした研究開発に取り組んだ背景について、「近年加速する少子高齢化によって建設現場での熟練作業者が減少し、事故率が上昇傾向にあること」「夏場の作業中に熱中症などの体調不良が発生しやすいこと」などが社会問題となっており、労働環境の改善が喫緊の課題であるからだと説明した。

そして本研究の目的として次の3点を挙げ、これらを実現するためのデータ収集・蓄積・解析を行うシステムを構築するとした。

  • 作業者の体調が作業効率に与える影響の明確化
  • 屋外作業時など熱中症に至る体調不良を予測し、健康管理する手法開発
  • 立ち入り禁止エリアへの侵入を防止するための作業員への警報

今回開発したIoT計測システムは、東洋紡のフィルム状導電素材「COCOMI」とユニオンツールの心拍センサ「WHS-2」などで構成されるスマートウェアを利用。作業者に着用してもらい、生体データを取得する。取得データはいったんTiのSensorTag IoT評価キット「CC2650-STK」に蓄積して、ワンボードマイコン「Raspberry Pi Zero W」を利用したアクセスポイントへ送信するというシステム構成だ。

各アクセスポイントで受信される信号強度から作業者の位置を特定することで、センサが計測した時刻・心拍数・体表温度・加速度(3軸)を位置データとセットで記録・収集できる。

作業者の生体データを取得し、アクセスポイント経由でサーバに集積するシステムを開発した

作業者の動線データと生体情報から、作業者の状況を視覚化

児玉准教授は続いて、機械学習による心拍変動の解析方法という先例を引用。作業者の加速度・移動速度・心拍・温度などをプロットすることで、例えば「作業効率と心拍変動」「疲労度合いと心拍変動」「環境と心拍変動」などの関係を視覚化できるという考えを示した。

実際の作業現場と作業員による実証実験を予定

このIoTシステムの実証実験は、2018年6月29日に大阪市内雨水滞水池築造工事現場にて、熊谷組の協力の下、7名の被験者にセンサシステムを装着させて、足場の撤去作業を実施する。被験者の動線と生体情報を取得する予定だ。

児玉氏は、現時点で次のような5つの仮説を立て、研究を進めるとしている。

  1. 実務経験は、作業効率と正の相関を示す
  2. 実務経験は、体調と正の相関を示す
  3. 作業効率は、体調と正の相関を示す
  4. 作業効率は、作業時間の長さと負の相関を示す
  5. 振動通知は、現場の危険忌避として有効な手段となる

作業者を点、動線を枝としたネットワークで表現

2人目の登壇者は、東京理科大学理工学部講師の小林和博氏。本研究において、センサシステムが取得したデータを、ネットワーク解析による行動最適化という手法で分析するアプローチの概要と課題について説明した。

数理科学におけるネットワークとは、点と枝による表現方法のこと。これを使うことで社会のいろいろな課題を数理モデルとして表現できるという。例えば鉄道路線図をモデル化し、複数の経由地候補がある拠点間の最短距離の計算などに適用できる。本研究の作業者とその動線の解析に、このネットワーク解析を適用すると説明した。

作業者と移動経路を点と枝のネットワークとして表現し解析する

次に位置データを得るために、車両で使われている技術と歩行者に有効な技術の違いについて触れた。車両と歩行者(作業者)では移動速度に大きな差があるとし、歩行者の時速3km、秒速1~2m程度の移動に対してはGPSの解像度が不足しているという。

そのために、歩行者の位置情報を解析するためには、「あらかじめ位置のわかっている機器によりGPSデータを補正する」「歩行者が取りうる行動を『歩行モデル』として、その範囲内に補正する」といった手法が使われていると、小林氏は紹介した。

工事現場という特殊性に対応できる位置情報取得方法を考案

そしてその上で、今回の実験対象となる工事現場の特殊性に言及。現場レイアウトが刻々と変化するためGPSデータの補正が難しいこと、作業者の動きは一般的な歩行者の動きとは異なりモデル化による予測が難しいことを課題に挙げた。

これを解決するため、本研究では一般的なGPSによる位置情報ではなく、Raspberry Piを用いたWi-Fiアクセスポイントを作業現場に5~10m間隔で設置。アクセスポイントで受信した電波強度から推定するという手法を採用した。

プロトタイプを使ったデータ取得例。2台のユニットを使い、時間と心拍をプロットしている

この手法によって取得した移動データ・センサからの生体情報は、クラウドサーバに送信して蓄積し、「危険個所への接近をなくす(作業者へのリアルタイム警告)」「過去の作業動線解析による翌期以降の作業レイアウト改善」といった行動最適化のためにデータ解析する。解析したデータは、作業現場あるいは作業を計画する部門に送り、次の作業現場の計画に使用することを想定している。

セミナー会場では実際のシステムを使ったデモを実施した

その後、スマートウェアを着用した児玉准教授が再び登壇し、IoTデバイスプロトタイプによるデモを行った。セミナー会場の左右に1台ずつRaspberry Piによるアクセスポイントを置き、スマートウェアからのデータが前方にあるPCサーバへと定期的に送信されている様子を説明した。

取得したデータの表示イメージ。被験者のデータを既定のフォーマットでリアルタイムに取得している

セミナーの最後に、今後、実証実験を数回繰り返してデータを取得・解析し、その後システムをブラッシュアップすると、今後の予定を明らかにしている。

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