大阪大、蒸着技術で世界最高品質級のダイヤモンドカプセルの作製に成功――核融合燃料の圧縮を安定化

核融合実験用ダイヤモンドカプセル(直径約500μm,膜厚約6μm)

大阪大学は2018年7月13日、レーザーで核融合燃料が圧縮される際に問題となる表面の凸凹形成(レーザーインプリント)が、硬くて重い物質では抑制されることを初めて明らかにしたと発表した。これにより、凸凹が形成されにくい硬いダイヤモンドを燃料カプセル材として用いれば、レーザー核融合燃料の安定した圧縮や効率的な加熱ができると期待される。さらに、研究グループは実際に最新の蒸着技術を使って、核融合燃料に応用するためのキーテクノロジーとなる高精度なダイヤモンドカプセルの作製にも成功した。

「直接照射型慣性核融合」では、核融合燃料が内包されたカプセルは直接照射した高強度レーザーにより圧縮・加熱される。これにより、高温・高密度のプラズマ状態になると、約100億分の1秒の短時間内の核融合反応が可能になる。この核融合反応の発生には均一なレーザー照射に加えて、ナノメートルレベルの膜厚均一性を持つカプセルが必要だ。

レーザーインプリントの概念図(a)レーザー照射極初期時(b)照射直後から時間が経過し,表面上のプラズマ領域が広がっているとき

レーザー照射が非一様な場合、カプセル表面上に形成されるプラズマの圧力が不均一になる。その結果、カプセル表面に振幅1μm程度の「インプリント」と呼ばれる微小な凸凹が発生し、表面が歪む。このインプリントはカプセルの圧縮・加熱を妨げる要因の1つであるため、非一様なレーザー照射下でもインプリントを抑えることが、安定な燃料圧縮のための課題となっている。

これまで、照射時間の経過とともに広がるプラズマ中では、遮断密度(光が反射されるプラズマの密度)面近くでの圧力不均一が熱伝導により実効的に緩和される効果「熱平滑化効果」が実証されている。しかし、この熱平滑化効果は照射直後はプラズマ形成が不十分で、この緩和機構は有効でないという欠点がある。

今回、研究グループは物質の硬さや密度に着目。「物質表面の押されるスピードが小さいほど、つまり、重たくて圧縮されにくい物質ほど凸凹が形成されにくい」という予測の実験的な検証のため、極めて硬いダイヤモンドに生じるレーザーインプリントの基礎実験を、同大学レーザー科学研究所の高出力レーザー激光XII号において実施した。

実験及びシミュレーションの結果、ダイヤモンドのインプリント擾乱は従来のカプセル材であるポリスチレンの約30%にまで低減されていることが明らかになり、同予測が初めて実証された。この硬さや密度による効果と従来の熱平滑化効果とを組み合わせることで、さらなるインプリントの抑制が期待されている。

さらに、研究グループは、水素とメタンから成る原料ガスをフィラメント加熱によって分解し結晶成長させる方法で、真球度(完全に丸い球からの差の度合い)が99.7%で数十ナノメートル以下の平滑性をもつ均一性の高いダイヤモンドカプセルの作製に成功した。この手法では原料ガス濃度やガス圧を最適化することで表面平滑性がさらに向上できる可能性がある。

また、研磨を用いないことから、研磨工程における加工損傷層や、これらに起因する残留応力(物体に加えられた外力が除去された後にも物体内に存在する内力)が加工面内に生じる問題を回避でき、核融合用カプセルの大量生産に繋がることが期待される。

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