太陽の可視光を吸収して水分解する窒化タンタル光触媒を開発――人工光合成などの効率向上に貢献 NEDOなど

今回開発した単結晶窒化タンタル微粒子光触媒(電子顕微鏡写真)

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2018年9月4日、人工光合成化学プロセス技術研究組合などと共同で、可視光領域で水を分解する窒化タンタル光触媒の開発に成功したと発表した。可視光領域の波長600nm近辺は太陽光で最も強度が高い領域のため、効率的なエネルギー活用が期待されている。

NEDOは環境に優しいモノづくり実現を目指して、太陽光のエネルギーで水から生成した水素と工場などから排出されるCO2を合成して、プラスチック原料などの基幹化学品(二重結合を1つ含む炭化水素化合物で、炭素数2から4のC2~C4オレフィン)製造プロセス実現のための基盤技術開発に取り組んでいる。

太陽光の強度のピークは主に400nm~800nmの可視光領域にあり、光触媒がこの波長域の光を吸収して水を分解できれば、効率よく太陽光のエネルギーを利用できる。しかし、従来の光触媒は吸収波長が主に紫外光領域(~400nm)に限られるものが多い。このため、可視光領域から赤外光領域の光を利用するためには、光触媒の吸収波長を長波長化することが課題だった。

太陽光の波長とスペクトル強度

今回、同研究グループは世界で初めて、可視光を吸収して水を分解する単結晶窒化タンタル(Ta3N5)微粒子光触媒の開発に成功した。この触媒は可視光領域のうち400~600nmで水を分解できるという。特に600nm近辺は太陽光で最も強度が高い波長域なため、効率的なエネルギー活用が期待できる。

理論的には窒化タンタルは400~600nmまでの波長範囲の可視光を吸収し、水を水素と酸素に分解できるバンド構造(固体材料中の電子が存在できるバンドと呼ばれる帯状のエネルギー領域の構造)を持つことが、2000年頃には判明していた。しかし従来の合成手法では、原料の酸化物をアンモニア気流中で長時間加熱するため、良質な窒化物微粒子の合成が困難で、窒化タンタル光触媒を用いた水分解は行えなかった。

そこで研究グループは、複合酸化物(タンタル酸カリウム、KTaO3)微粒子を従来の1/10以下の短時間で窒化することで、複合酸化物微粒子上に単結晶の窒化タンタル微粒子を直接形成。さらに水素生成反応を促進する助触媒(酸化還元反応の活性点として光触媒に担持される金属・金属酸化物等の微粒子)を担持させた。

単結晶窒化物微粒子の合成

これにより窒化物微粒子の純度が高まり、光励起された電子と正孔を水分解反応に有効利用することが可能となった。開発した光触媒を水中に分散させることで、400~600nmまでの波長範囲の可視光や疑似太陽光(強度と波長の関係が自然太陽光と同等となるように設計された光)を吸収して水を分解できる。また、基板に固定化すれば、光触媒パネル反応器に組み込める。さらに、製造時間が従来の1/10以下のため、安価なプロセスが期待できる。

単結晶窒化物微粒子光触媒による疑似太陽光下での水分解反応

今後は、窒化タンタル光触媒の合成手法の改良や、酸窒化物、酸硫化物などの異なる材料への展開を通じて、水分解用微粒子光触媒の機能改良を進めるという。

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