1μmオーダーの空間分解能をもつ高感度精密温度計を開発

温度センサーは、ヨッフェ物理学技術研究所で合成されたシリコン・カーバイド結晶から作製された。

ロシアとドイツの共同研究チームは、1μmオーダーの局所領域の温度測定が可能なデバイスを開発した。従来のダイヤモンド材の代わりにシリコンカーバイド(炭化ケイ素)結晶を用い、測定精度も高いため、マイクロデバイスにおける熱放散や、生化学プロセスにおける温度分布などの測定に活用できると期待されている。研究成果は、2018年8月7日に『AIP Advances』誌にオンライン公開されている。

ダイヤモンドの結晶構造において、本来あるべき炭素原子を窒素原子が置換し、かつその隣接する位置に空孔がある場合、「窒素-空孔中心(Nitrogen-Vacancy:NV中心)」と呼ばれる複合欠陥が生じる。このNV中心が電子を捕捉した場合、特定波長を持つ光の照射を受けると、検出可能なフォトルミネッセンスを示すことが知られており、光学的な応用が注目されている。

サンクトペテルブルクにあるヨッフェ物理学技術研究所のAndrey Anisimov氏らの研究チームは、ダイヤモンドにおけるNV中心と同様の空孔欠陥を含むシリコンカーバイド結晶を作製、これに一定磁場下で赤外レーザー光を照射して、生じるフォトルミネッセンスを測定した。

磁場を強くすると、空孔における電子スピンが、エネルギー準位間を遷移しやすくなり、特定の磁場強度に達すると、反交差と呼ばれる量子プロセスを通じて、3/2のスピンを持つ電子の比率が急激に変化する。フォトルミネッセンスの輝度は、様々なスピン状態における電子比率に依存するので、輝度の変化を観察することで、局所的な磁場強度を正確に測定することができる。

さらに磁場の変化により、空孔における電子が交差緩和という量子プロセスを生じると、発光が急激に変化する。この交差緩和に必要な磁場強度は、材料温度に直接結びついていることもわかった。これにより、フォトルミネッセンスが急激に変化する磁場強度を測定することにより、局所的な材料温度を直接計算できる。測定精度は1μm3の幾何的分解能で、10mKオーダーの高精度で決定することができるという。

「この研究により、極めて局所的な温度と磁場のセンサーを、1つのデバイスで作製できるようになった」と、Anisimov氏は語る。このセンサーは100nm程度に微小化できるため、宇宙産業やマイクロデバイス、生体システムにおける観察にも活用できる。「ダイヤモンドと異なり、シリコンカーバイドは既に商用化されている安価な半導体材料であり、活用範囲は拡大するだろう」と、期待している。

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