太陽観測ロケットFOXSI-3の打ち上げ成功――コロナからの軟X線集光撮像分光観測に日本の技術が貢献

FOXSIの観測装置。7本の望遠鏡(左側)と7個の検出器(右側)から成る

国立天文台は2018年9月11日、日米共同の太陽観測ロケット「FOXSI-3」の打ち上げに成功したと発表した。FOXSI-3には日本の研究グループが開発した観測装置が搭載されている。打ち上げは、米国ニューメキシコ州ホワイトサンズの観測ロケット打ち上げ場で現地時間9月7日に行われた。FOXSI-3は最高到達高度約300kmの弾道軌道で約15分間飛翔。「活動領域」や「静穏領域」、「太陽の北極域」といったX線輝度の異なる3つの太陽コロナ領域を約6分間観測し、世界初となる太陽コロナの軟X線・集光撮像分光観測を成功させた。

FOXSI(Focusing Optics X-ray Solar Imager)は、太陽コロナが放つX線を集光撮像分光観測する日米共同のロケット実験。今回のFOXSI-3が3回目の飛翔となる。FOXSI-3は、斜入射ミラーと検出器から成る望遠鏡を7本持ち、ミラーの数や検出器の種類を変えることで、広いエネルギー範囲のX線を観測できる。これまでも日本のFOXSIチームは焦点面検出器を開発し、硬X線域(主に4keV~20keVの高エネルギー域)の観測をするなどの成果をあげてきた。今回7本の望遠鏡のうち、6本にはこの焦点面検出器が搭載された。

今回、新たに軟X線域(主に0.5keV〜10keVの低エネルギー域)の撮像分光観測を行うための「裏面照射型CMOS検出器」が採用され、望遠鏡の1本に搭載された。太陽軟X線の光子計測(検出器により光子1個1個の持つエネルギーを計測して分光する方法)による2次元撮像分光観測には、高速連続撮像が可能なカメラが必要になる。太陽コロナで起きているダイナミックな現象は数十秒~数分間程度と寿命が短いので、スペクトルを作るために必要な数の光子を集めるのに数時間かかるCCDでは観測できない。そこで、国立天文台の成影典之助教、名古屋大学の石川真之介研究員らは、裏面照射型CMOS検出器を用いることで、1秒間に250枚の撮像が可能な高速度X線カメラを開発。世界初となる太陽軟X線の撮像と分光の同時観測を目指した。

軟X線観測用の裏面照射型CMOS検出器。

また、軟X線の観測には、太陽からの強烈な可視光を完全に遮光する一方で、軟X線を十分に透過するフィルターが必要になる。金属を使用すれば可視光は遮断できるが、厚すぎるとエネルギーの低い軟X線は十分に透過しない。そのため、厚さ150ナノメートルという極めて薄く、微小な破れ(穴)もなく、均一な厚みを持つアルミ製のフィルターが求められた。名古屋大学の三石郁之助教らのグループはこれに加えて、ロケットの打ち上げの振動でも破れないフィルターを開発、FOXSI-3の軟X線観測を成功させた。

FOXSI-3の望遠鏡に搭載された可視光遮光フィルター(9時の方向)

日本で開発された最新技術は他に、硬X線観測用の「CdTe検出器」や3D金属プリンターを用いた「迷光遮蔽構造体(プレ・コリメータ)」がある。従来の硬X線観測用の検出器の解像度は受光面で数百μm(一般的な焦点距離の望遠鏡では数十秒角の空間分解能に相当)もあり、太陽の観測に必要な秒角レベルの空間分解能に達していなかった。東京大学Kavli IPMUの高橋忠幸教授らは、新たに60μmという世界最高の解像度をもつCdTe検出器を作成。秒角レベルの空間分解能を持つ撮像と硬X線域の分光を同時に達成した。

国立天文台の成影典之助教らは、機械加工で製作するのが難しい高アスペクト比の穴を多数持つ迷光遮蔽構造体を、3D金属プリンターを用いて開発。これにより、FOXSIで用いる斜入射ミラーが検出器に集めてしまう迷光(望遠鏡の向いている方向より離れた場所から来る不要な光)を除去した。

FOXSI-3の望遠鏡に搭載された迷光遮蔽構造体(プレ・コリメータ)

今回の観測データの解析は始まったばかりだが、太陽コロナにおける高エネルギープラズマの精確な測定や、太陽コロナの加熱の担い手の有力な候補の1つである「ナノフレア」など、コロナの小規模な現象の解明が期待される。

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