「シュレーディンガーの猫」を拡張すると、量子論自体が矛盾するという思考実験

スイスのチューリッヒ工科大学の研究チームは、有名な思考実験「シュレーディンガーの猫」をさらに拡張した思考実験について発表した。自己参照型のシステムに量子論を適用すると、結果が矛盾する場合があるという。研究結果は2018年9月18日付けの『Nature Communications』に掲載されている。

量子論は現代物理学の根底にある。たとえば電子の位置は正確には予言できず、確率で与えられる。その存在は広がりを持った「波動関数」で表されるが、位置計測をすれば1点に定まる。このことを理解するために、量子状態を観測すると観測値に対応する状態に変化するという「コペンハーゲン解釈」が提唱されたが、量子論と古典論で法則が異なるのはなぜかという疑問が残った。

ミクロの量子論がマクロな世界でも普遍的な妥当性をもつことができるかという思考実験には「シュレーディンガーの猫」「ウィグナーの友人」などがある。

シュレーディンガーは、アルファー粒子の発生によって箱の中の猫の生死が決まるという箱を定義し、それを量子論的に解釈するなら、ふたを開けて観測するまでは、猫が死んだ状態と生きた状態、つまり巨視的にまったく異なる状態の重ね合わせだとした。

ウィグナーは、箱の中の猫を物理学者の友人に置き換えた。箱の中でコインを投げた友人は、その結果を知っている。観測者であるウィグナーは、箱を開けるまで結果が分からない。コインの表を出した友人と裏を出した友人の重ね合わせという不確定な状態になっている。

研究チームは、「ウィグナーの友人」をさらに拡大した。ウィグナーと友人のペアを倍にして、友人1の入った箱を観測者1が、友人2の入った箱を観測者2が観測する。友人1はコインを投げた結果を量子メッセージとして友人2に送る。友人2は量子論を使って、メッセージを検出し、コイントスの結果を推測する。観測者も同様で、コインの裏表は直接分からず、箱の計測結果から結論付ける。その結果、観測者1は「コインは表だ」といい、観測者2は「裏だ」という現象が起こるのだという。

これは、量子論を使う友人が存在するシステム全体を、量子論を使ってモデル化することができるとしたためである。この仮定の下で実験を分析すると、全て量子論から導かれたものであるにも関わらず、結論が一貫していない。つまり、量子論を複雑なシステムに適用することは簡単ではないことを示唆している。

ただ、今回の結果には、ほかの研究者たちも困惑しているようだ。このモデルでは友人2が友人1のメッセージを適切に解釈していない可能性を指摘する研究者もいる。まだまだ議論は続きそうだ。

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Quantum theory cannot consistently describe the use of itself

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