理研、パルス電流を用いた超伝導状態の生成・消去に成功――書き換え可能な量子コンピューターへの応用に期待

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超伝導不揮発メモリの概念図

理化学研究所は2018年10月6日、パルス電流を用いた「超伝導状態」の生成・消去に成功したと発表した。この結果は超伝導制御の新しい原理を実証するもので、新たな超伝導物質の探索や書き換え可能な量子コンピューターの回路素子の開発につながるという。

固体中でひしめき合う電子集団は、金属や絶縁体、強磁性、超伝導(電気抵抗がゼロの状態)など様々な状態を示す。その中でも、超伝導状態では、エネルギー散逸のない電力輸送が可能で、さらに巨視的な量子干渉効果(複数の状態が量子力学的な重ね合わせ状態になる現象)が起こる。そのため、現在は、超伝導状態を量子コンピューターなどに応用する研究が盛んになされている。

これまで100年以上にわたり、超伝導状態を示す新物質が探索されてきたが、その際、対象物質の化学組成や圧力を変化させる手法が主に用いられてきた。その根底には、「電子集団は圧力や温度などの環境と物質の化学組成の中で最も安定な状態になろうとする」という平衡熱力学の原理がある。しかし、このような従来の原理に基づいた候補物質の探索は、その電子集団が超伝導状態において最も安定になる物質に限られるという制約があった。

鉄鋼は鉄原子と炭素原子で構成されており、組成・圧力・温度などの条件が決まると、鉄鋼中の各原子の最も安定な配置はただ1つに定まる。したがって、平衡熱力学的には、鉄鋼の硬さは徐冷や急冷といった冷却の方法によらないと予測される。

しかし実際には、急冷下で生成された硬い鉄鋼中の各原子は最も安定な配置から外れた位置にあり、平衡熱力学の原理から予測される状態とは異なる。研究チームは、このような急冷による状態制御を固体中の電子集団に適用すれば、平衡熱力学の枠組みを超えた超伝導生成が可能ではないかと考えた。

研究グループはまず、急冷による超伝導状態の新しい生成法を実証する物質を選定するため、2つの基準を設定。1つ目は、低温では電子が規則正しく配列した「競合秩序」と呼ばれる状態(超伝導の発現を阻害している秩序状態)になるが、圧力や化学組成の変化によって競合秩序がなくなり、超伝導状態が発現されること。2つ目は、ある温度域で競合秩序が急激に形成されることだ。競合秩序が形成される温度域を急冷によって短い時間で通過すれば、競合秩序が形成されないまま低温に到達できる。

(a) 対象物質の最も安定な電子状態の圧力/化学組成-温度相図(b) 対象物質の急冷後に期待される電子状態の相図

次に、2つの基準を満たす物質の一例として、IrTe2(Ir:イリジウム、Te:テルル)という化合物を用いて、極低温で実験を行った。IrTe2の薄片試料にパルス電流を加えたところ、試料温度は瞬時に、2.4K(約-270.8℃)から400K(約126.8℃)まで上昇した。そしてパルス電流が終了すると、試料の熱が薄片試料を乗せた基板に奪われ、秒速1,000万Kを超える速度で元の2.4Kまで冷却された。

(a)実験で用いたIrTe2の薄片試料と電極の顕微鏡像。(b)パルス電流を加えている間の試料温度のシミュレーション結果。

また、試料の電気抵抗率はパルス電流を加える前では有限だったが、加えた後にはゼロになり、超伝導状態が生成されたことが分かった。これにより、平衡熱力学の枠組みに基づいた従来法とは異なる、超伝導状態の新しい生成法が実証された。

次に研究グループは、この超電導生成法を用いてIrTe2が示す新たな機能性の創出を試みた。急冷により超伝導状態を生成した後、急冷用のパルス電流よりも低い強度で長い時間のパルス電流を加え、試料温度を50K(約-223.2℃)から280K(約6.8℃)の間で保ったところ、競合秩序が形成された。パルス電流の終了後は2.4Kまで試料が冷却されたが、電気抵抗率は有限の値を示し、競合秩序の形成により超伝導状態が消去されたことが確認された。

(a) 電気抵抗率と電流の時間変化(b)パルス電流を用いた超伝導不揮発メモリーの繰り返し動作

このようにして研究グループは、2種類のパルス電流で超伝導状態の生成と消去を繰り返すことに成功し、「超伝導-非超伝導状態を不揮発的に書き換えるメモリー機能(超伝導不揮発メモリー機能)」を実証した。従来の超伝導生成法に基づくと、超伝導状態の生成と消去には、化学組成や圧力を変化させる機構を対象物質と組み合わせる必要があった。一方、今回の超伝導状態の生成と消去を行うパルス電流は、超伝導状態を検出するための回路を用いて加えることができる。さらに、超伝導不揮発メモリーを組み合わせて回路を構成することで、異なるパターンの超伝導回路の書き込みと消去を繰り返し行うことも可能だ。

今回実証された超伝導不揮発メモリー機能は、目的に応じて書き換えることが可能な超伝導回路の開発に向けた要素技術につながると期待されている。

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