液化石油ガスやエタノールから発電——コンパクトな100W級の燃料電池システム

産業技術総合研究所(産総研)とアツミテックは2017年2月9日、液化石油ガス(LPG)やエタノールをもとに100W級の出力を発揮する「コンパクトハイパワー燃料電池システム」の開発に成功したと発表した。災害などの非常用電源としてだけでなく、ロボットやドローン、移動体レンジエクステンダーなどの常用電源としての活用も期待できる。

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産総研とアツミテックの研究グループは2013年の時点で、LPGの主成分の1つであるブタンから400~600℃の温度でダイレクト発電できる数十W級の「ハンディ燃料電池システム」を開発していた。だが、600℃以下の低温では電極活性が低下するため、常用電源として必要な100~数百W級へ規模を拡大するには、瞬時に効率よく電極反応が進む高温での作動を可能にする必要があった。

そこで今回、ブタンなどの炭化水素燃料を部分酸化改質できるナノ構造電極材料を開発すると同時に、運転制御技術の改質条件を最適化した。というのも、650℃以上の高温では、ブタンをSOFCに直接供給した際に熱分解で起きる炭素析出の速度が酸化速度を上回り、電極表面で炭素析出による劣化が起こるからだ。このナノ構造電極材料や運転制御技術により、電極内部での燃料の改質を実現したことで、650℃以上の高温でも発電できる燃料電池モジュールの開発に成功したという。

この燃料電池モジュールは従来に比べ、同サイズのモジュールあたりの出力が数十W級から100W級へ約3倍に向上。体積あたりの出力密度も約3倍だ。また、電極表面や燃料導入部での炭素析出が確認されなかったので、数百時間の連続発電や数百回の起動停止の繰り返しが可能になる見込み。この燃料電池モジュールを複数個設置すれば、数百W~数kW級の燃料電池システムに拡張できる。

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また、研究グループが開発したナノ構造電極材料では、エタノール燃料の水蒸気改質も可能。エタノール燃料はブタン燃料よりも炭素の析出速度が速いが、今回の燃料電池モジュールはこのナノ構造電極材料と最適化された運転制御技術により、エタノール燃料でも数百時間以上連続で発電できる。

なお、ナノ構造電極材料には白金などの貴金属触媒を使用していない。そのため、固体高分子形燃料電池(PEFC)などで問題になる一酸化炭素被毒の問題は起きない。内部改質で生成した一酸化炭素は発電時に二酸化炭素に酸化されるが、排気ガス中の一酸化炭素濃度は極めて低かった。

今回の燃料電池システムは、電極内部で燃料を改質し、起動用バーナーを搭載するため、外部改質器や起動用の外部電源が不要で、断熱材などの部材の配置を最適化して非常にコンパクト。そのため、災害などの非常用だけではなく、設置スペースの制約が厳しい移動体レンジエクステンダーやロボット、ドローンなどをはじめ、常用電源として幅広い市場での応用が期待される。

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