低侵襲で脳深部を手術するロボットシステム――脳組織の損傷を50%削減

中国科学院傘下の香港Centre for Artificial Intelligence and Robotics(CAIR)は、脳神経外科手術を低侵襲で実施するためのロボットシステム「MicroNeuro」を開発している。

第1世代の手術用ロボットは、新しい機構設計と遠隔操作による制御を特徴として、腹腔鏡下手術に革命をもたらした。しかし現時点では技術的限界から、ロボットを使用できる手術件数の割合は3%未満に留まっている。

既存の手術ロボットでは、「曲がらない」内視鏡や顕微鏡を使用する。このため、手術の準備の段階で、これらの機器を通すための「直線的」な軌道を体内に作る必要がある。具体的には、頭蓋骨に「Bone Window」と呼ぶ開口部を形成する。

ただしこの方法は、手術中に健康な脳組織を圧迫するため、脳に損傷を与える恐れがあり、手術合併症の可能性を高めてしまう。CAIRはその解決策として、自己進化型の人工知能を備え、センサー化された低侵襲の手術ロボットシステムの開発を考えた。

今回開発したMicroNeuroは、低侵襲の脳神経外科手術用の柔軟なロボットシステムであり、柔軟な内視鏡、精密な制御、人工知能などの技術を統合している。これらの技術によって自由度の高い手術軌道を採ることができるため、患者の安全性が向上する。

また、MRI画像に基づいた術前計画の段階で、頭蓋骨内の空洞部分を利用して機器を通す軌道を確保する。これにより、最も低侵襲な方法で目的の場所に到達できる。

MicroNeuroは、繊細な脳組織、狭い体内の空間、手術操作の難しさなどの課題に対処する手段となる。脳室手術、三叉神経痛向けの減圧術、脳出血などの頭蓋内深部の手術に使用できる。これは、世界中の何百万人もの患者を救ううえで役立つ可能性がある。

CAIRはMicroNeuroの効果を確認するため、松果体領域の胚細胞腫瘍を治療する際に使用する、内視鏡的第三脳室開窓術と松果体の生体検査の手順について、遺体による実験を複数回実施した。既存の外科的手法は2人の外科医を必要とし、多くの場合、大脳皮質に向けて2本の侵襲的な貫通軌道を用意する必要がある。このため、正常な脳組織に損傷を与える恐れがある。

研究チームは、MicroNeuroの使用時、頭蓋骨の開口部は1か所で必要とする軌道は1本、手術に必要なすべての作業を、1人の外科医で完了できることを証明した。同時に、脳組織の損傷を少なくとも50%削減できることを示した。

MicroNeuroのようなシステムは、人間がもつ能力の限界を超えるものだ。開発元であるCAIRは、手術の安全性を向上させることで外科医を労働集約的な作業から解放し、新たな外科治療を可能にして、最終的には手術の成績を向上できると考えている。

メディアによれば、現在はシステムの微調整を進めており、CAIRは香港の医院管理局から承認を得た後、臨床試験を開始するべく準備を進める模様だ。

関連情報

Centre for Artificial Intelligence and Robotics (CAIR) Hong Kong Institute of Science & Innovation, Chinese Academy of Sciences

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