社内で噂の「宇宙好きの新人」が宇宙開発エンジニアに成長するまで——富士通 倉田育枝氏

人工衛星の運用を支える地上システムの開発

業務の効率化を検討するチームでも活動。「家庭と両立できる魅力的な働き方も考えたい」

業務の効率化を検討するチームでも活動。「家庭と両立できる魅力的な働き方も考えたい」

――現在はどのようなシステムに携わっているのですか。

人工衛星のデータを伝送するシステムに携わっています。

人工衛星を運用するには地上のデータ処理システムがとても重要です。衛星の軌道を計算するシステム、軌道や姿勢、電源、観測機器などを制御するシステム、衛星がミッションを遂行するための計画を立てるシステム、衛星が取得した観測データをユーザに提供するシステムなど、複数のシステムをつなげて衛星は運用されます。富士通では、このような人工衛星を運用するシステムの開発や保守を行っています。

私が今担当しているのは、この複数のシステム間をつなぐ「データ伝送システム」です。各衛星からの観測データをひとつの伝送ルートにまとめ、さまざまなユーザへ提供する役割を担っていて、特にそこを汎用化しようとしていることが特徴です。今までは、衛星ごとに独自の伝送の仕組みを持っていましたが、それを集約することで、利便性を向上させ、セキュリティや保守性が高まるシステムを整備することを目指しています。

――スペースデブリ(宇宙ゴミ)を回避するためのシステムにも携わったそうですね。

衛星の軌道を計算するシステムは、スペースデブリの軌道も計算することができます。それを活用し、運用中の衛星にデブリが接近する可能性を、事前に予測・解析するシステムに携わりました。

デブリの最接近日が近づくほど、解析結果の精度が高くなるので、1週間前にアラートが鳴っても、2~3日前になるとぶつかる危険性が低いということも多いです。近年このデブリが増加していることは、国際的にも大きな宇宙環境の課題になっています。

――目標とする先輩はいますか。

スペースデブリのシステムの開発でご一緒させていただいた先輩です。金星探査機「あかつき」を金星周回軌道に投入するために、数万通りの軌道を解析して、リスクの少ない2つのルートを選び出した方です。すごい技術力がありながら、とても気さくな方で、しかも家庭を持ち、お子さんを育てながら最前線で活躍している。かっこいいなと思います。

「確かめ合うツール」という立ち回り

宇宙開発の一端を担えていること。それが大きなやりがいとなっている。

宇宙開発の一端を担えていること。それが大きなやりがいとなっている。

――これまでのプロジェクトで特に印象に残っているのは。

東京大学の超小型衛星「ほどよし3・4号機」向けの地上システム開発で、プロジェクトリーダをさせていただいたことですね。

ほどよし衛星は、サイズ50cm×50cm、カメラで地球を撮影することをミッションとするシンプルな衛星。本当に必要な機能だけに削ぎ落とすことによって、ミニマムな地上システムとなり、各システムが相互にどのように連携して動いているのかを理解することができた、印象深いプロジェクトでした。

大きな衛星システムでは、その一部だけを担当することが多いので、ほどよしのシステムに携わるまでは、あまり衛星の地上システム全体を理解できないまま仕事をしていたような気がします。

――現在もプロジェクトマネジメントを担当されていますが、どんなことに気をつけていますか。

プロジェクトを任されると、まず、コストと品質と納期の3つのバランスをとることにいつも頭を悩ませますね。

もう一つは、コミュニケーションの齟齬をどれだけなくせるようにするかということに気を配っています。たとえば「A」のことを会議で話していても、そのAはみんながまったく同じものをイメージしているとは限りません。そういう小さな認識の食い違いが、最終的に大きな違いになることがあるので、早期に軌道修正できるよう、常に確認するようにしています。みんなの仕事が上手く回るようにサポートすることやそんな環境をつくることも重要なプロマネの仕事と考え、そのために「確かめ合うツール」という立ち回りは重要だと思っています。

⇒次ページ:衛星の産声を受け取る……感動をモチベーションに

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