東京大学は2016年4月16日、同大学院工学系研究科の染谷隆夫教授と横田知之講師らの研究グループが、柔軟性を維持させたまま極薄有機LEDを29時間大気中で動作させるのに成功したと発表した。また、極薄の高分子フィルム上に有機LEDと有機光検出器を集積し、心拍数や血中酸素濃度を1分以上計測することにも成功したという。
同研究グループが開発した有機LEDは、基材である高分子フィルムの厚さがわずか1μm。また、基材や保護膜を含む全体の厚みが、人間の皮膚表皮の約1/10に相当する3μmしかない。そのため、皮膚のように複雑な形状をした曲面に貼り付け、ディスプレイやインディケーターとして利用できる。
同有機LEDは、高分子材料を発光層に用いたLEDとしては世界最高水準の特性を持ち、ガラス基板上に作製したデバイスとほぼ同等(差は最大で5%程度)だという。例えば、赤、緑、青のLEDの外部量子効率は各々12.4、13.9、6.3%。10Vで動作した時の輝度は10000cd/㎡だ。
また、曲率半径100μmまで曲げても、くしゃくしゃに折り曲げても、特性が損なわれないという特徴を持つ。1000回繰り返して60%伸張させたところ、デバイスの特性が10%しか変化しなかったという。
今回、大気安定動作を実現する鍵となった技術は2つ。1つは、デバイスを極薄に維持したままで、水や酸素の透過率が低い保護膜を極薄の高分子基板上に形成する技術。もう1つは、極薄の高分子基材に損傷を与えずに、透明性電極の代表である酸化インジウムスズ(ITO)を成膜する技術だ。
前者の技術では、有機層として500nm厚のパリレン膜、無機層として200nm厚のSiONを積層化した5層の多層膜を成膜。これにより、保護膜の総厚みが2μm以下でありながら、水分透過率を5×10-4g/㎡・日まで、同時に酸素透過率を0.1cm/㎡・日まで低減した。
後者の技術では、熱やプラズマで高分子基材が損傷しないように、ITOを室温にて極薄高分子基材上に成膜。特に、ITOを成膜する前に、500nm厚のポリイミドをコーティングし、表面の平坦性を3.6nmから0.3nmまで改善するなどの工夫を凝らした。
なお、血中酸素濃度の計測に当たっては、2色(緑と赤)の有機LEDと有機光検出器を集積化した極薄デバイスを指の先端に巻き付け、反射型の配置で計測したという。
ヘルスケア、医療、福祉、スポーツ、ファッションなど多方面への応用が期待されるとしている。