アブラムシが植物を操作し、表面加工して巣内を撥水コーティング――東大と産総研

東京大学と産業技術総合研究所(産総研)は2018年10月17日、昆虫が植物を操作して撥水性を持つ巣を作ることを発見したと発表した。

生物の体表面は、環境への適応の結果、さまざまな微細構造を示す。中でも、濡れ/汚れを防ぐ撥水構造はバイオミメティクスの分野で注目され、例えば、ハスの葉の表面は微小な細胞突起が作る凹凸構造が高い撥水効果をもたらす。この撥水効果はロータス効果として知られ、水をはじく傘や撥水塗料、ヨーグルトの蓋などに応用されている。しかし、これまで研究されてきた撥水構造の例は、生物が自分自身の体表面を改変することで生じるものだった。

今回、研究グループは、アブラムシが植物上に作る虫こぶに着目。アブラムシが植物の表面微細構造を操作して、撥水性を誘導することを発見した。

(a)虫こぶ(b)虫こぶに開いたスリット状の穴

社会性アブラムシであるボタンヅルワタムシは、ケヤキの葉裏に1cmの球状の巣である虫こぶを作る。その虫こぶの内壁表面には、長さ約0.1mmの植物由来の微小な毛(トライコーム)で覆われており、それを今回、走査型電子顕微鏡により観察した。結果、内壁表面には1mm2あたり約200本、通常の約30倍の微小毛が高密度で生えていることを発見。加えて、アブラムシが分泌するワックスが、虫こぶ内壁表面に凹凸を持った構造を作り出すことがわかった。さらに、この微小毛は虫こぶ外にも分布しており、アブラムシによる植物の生理的変化が虫こぶ外部まで影響していることを見出した。

(c)ボタンヅルワタムシの幼虫(d)虫こぶ内壁表面上の植物由来の微小毛(e)内壁表面の微小毛に分泌された白色ワックス(f)水滴が落とされた内壁表面

さらに研究グループは、虫こぶ内壁、虫こぶ外にある微小毛密集領域、通常の葉裏という3つの領域の撥水性を、水滴と表面との接触角を測定することで評価。撥水効果が、通常のケヤキ葉裏<微小毛密集領域<虫こぶ内壁という順番であり、虫こぶ内壁の接触角が平均149.5°と、ほぼ超撥水性に近い撥水効果を持つことを明らかにした。

ケヤキ葉上の異なる表面における撥水効果の比較

今後は、ケヤキ以外の樹木にも同様の表面微細構造が存在しているのか検証するとともに、植物上で微小毛を誘導する生理メカニズムの解明も課題だとしている。また、この研究は、生物が持つ性質を模倣した材料開発にも新たな視点を与えるとしている。

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