原子炉容器の放射線照射劣化のメカニズムを解明--最初の衝撃波がカギ

米ミシガン大学と中国の湖南大学、米レンセラー工科大学の研究チームは、鉄の照射脆化に関わる原子転位ループの発生メカニズム解明につながるシミュレーション結果を発表した。原子炉容器の耐放射線性鋼材をはじめ、金属材料の剛性向上が期待される。研究成果は、2018年11月16日付けの『Nature Communications』に掲載されている。

照射脆化とは、金属材料が放射線にさらされて脆くなることをいう。特に高い放射線照射を受ける原子炉容器では、監視試験片を入れるなどして定期的に安全性を確認している。

常温の鉄は立方体の各頂点とその中心に原子がある体心立方格子(bcc)構造をとっている。そこに放射線や外力が加わると、原子がはじき出されて空孔ができたり、格子間に原子が入り込んだりと、様々な「欠陥」つまり転位が生じるが、これが円形状に集まって閉じたものを「転位ループ」と呼ぶ。

転位が移動することですべりが起き、材料は靱性を保つことができるが、転位が移動しない固定ループが結晶中に発生した場合、材料はすべることなく硬化、すなわち脆化を引き起こす。つまり、ループの形成場所を制御することができれば、鉄や鋼の剛性を上げることもできるはずだ。

研究チームは、高エネルギー粒子を確実に結晶中原子と反応させるために、約2億個の鉄原子を使った大規模分子動力学シミュレーションを実施した。bcc構造の鉄に高エネルギー粒子をぶつけることで、つぎつぎと鉄原子がはじかれるカスケードが生じ、その衝撃波が何百もの点欠陥といくつかの固定転位ループを形成することを確認した。

これまでも衝撃波から直接ループを形成できることは示唆されてきた。しかし、直接観測するには速すぎるイベントであり、従来の理論によるシミュレーションは条件が限定的で、想定よりループ形成に時間がかかるなど、過去50年間、満足いく結果が得られなかった。

今回の大規模シミュレーションの結果から、鉄原子の転位ループは最初の衝撃波で形成されることが分かった。そのプロセスはわずか13兆分の1秒程度だ。これは、これまでの検証より数桁速い。ぶつける粒子のエネルギーが低いと、ループ発生の確率が低くなることも確認した。

この手法を応用すれば、原子炉容器用の鉄合金に対する照射条件を提案することもできる。さらに、イオン注入、高エネルギー粒子衝撃、衝撃波圧縮を利用した微細構造を研究するうえでの手がかりとなる。

「エネルギーを変えて異なるタイプの転位を作り、材料の特性を調整すれば、材料内の欠陥を制御することができる。また、粒子のエネルギーを減らすことで、放射線被害も減らせる」と研究チームは語る。

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