電気で潤うコンタクトレンズを開発――バイオ電池搭載コンタクトレンズで電気浸透流による保湿効果を実証 東北大学

東北大学は2019年11月29日、電気浸透流の発生効率が高く成型性にも優れるハイドロゲル素材を開発し、それをコンタクトレンズに用いると、通電によってレンズ内に水流が発生し、乾燥速度が低下することを実証したと発表した。

さらに、生体親和性のバイオ電池を搭載して、外部からの給電を必要としない、有機物のみで構成された自己保湿型の抗ドライアイレンズの実現にも成功した。

今回の研究では、コンタクトレンズ内に「電気浸透流(EOF)」を発生させることで保湿が可能であるかの実証に焦点を置いた。これは、下瞼裏の涙液メニスカスから涙を汲み上げてレンズの湿潤を維持する新しいスマートレンズの開発につながる成果だという。

電気浸透流とは、固定電荷の存在などによってイオンの移動度に大きな差がある場合に、通電に伴って生じる流れのことで、キャピラリー電気泳動やマイクロ流路における送液に利用されている。一方、ハイドロゲルに固定電荷を導入して電気浸透流による送液システムとする検討例はほとんどなく、コンタクトレンズ内部に発生する浸透流と保湿性能との関連が指摘されたこともなかった。

実験では、メタクリル酸(MA)、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、メチルメタクリレート(MMA)の3種類のモノマーを共重合し、固定電荷密度が異なるハイドロゲルを調製。全てのモノマーが生体安全性を有し、すでに市販のコンタクトレンズに使用されている。

また、MAの含量の違いによってハイドロゲル中の固定電荷量が調節できると考え、ハイドロゲルフィルムに発生する電気浸透流を計測し、MAの割合による電気浸透効率の変化を調べた。

その結果、既存のコンタクトレンズ材料の組み合わせで電気浸透流が発生する材料が合成可能であり、MAの割合によって発生効率を調節できることが示された。また、MAの割合が増えるとハイドロゲルが脆くなることも明らかになった。

さらに、厚さ0.2mmのコンタクトレンズ形状を十分に維持できるMA割合10wt%のハイドロゲルを固定電荷が最大のハイドロゲル素材とし、電気浸透流によるハイドロゲルの乾燥防止の可能性を検討。自然乾燥での伝導度の低下(乾燥)とEOFを発生させて乾燥の具合を比べると、EOFを発生させた場合には、イオン伝導度が初期の値に戻り、乾燥したハイドロゲルが再び湿潤したことが示された。また、乾燥速度もEOFが発生している場合の方が遅いことが分かった。湿潤効果はEOF電流が大きいほど顕著で~20µA/mm2程度の微小電流でも確認できた。

実験は比較的乾燥した環境(湿度40%)で行ったことから、コンタクトレンズとして使用する状況では、さらに微小な電流で保湿可能だという。また、実験では水分の直接観察によるEOFの保湿効果も検証した。球面状の眼球モデルをアクリル樹脂で作製し、これにMA10wt%のコンタクトレンズを装着した状態で、隙間に注入した水分の存在を蛍光ビーズの動きで評価した。

その結果、EOF電流を流さない場合には60min後にビーズの動きが止まって、水分が消失したが、53µA/mm2を印加すると、60min後もビーズの移動度に変化はなく、水分が保持されていることを確認した。

最後に、コンタクトレンズに電池を搭載して、外部からの電力供給を必要としない自立型デバイスとして駆動させることも検討。2種類の生体適合性電池、Mg/O2電池、および酵素触媒を用いるフルクトース/O2バイオ電池で実験した。酵素触媒に用いたフルクトース脱水素酵素(FDH)とビリルビンオキシダーゼ(BOD)は、メディエータ分子を必要としない直接電子移動型酵素であり、炭素繊維の布に吸着させて酵素電極にした。

電池の出力電流の経時変化により、電流が徐々に低下した。電池自体の耐久性は、12時間以上であることから、ここで生じた電流低下はコンタクトレンズが徐々に乾燥することによって抵抗値が大きくなったことが原因であると考えられる。しかしながら、自然乾燥の場合と比べると、電池による発電によって明らかに乾燥速度が低下していることが示され、保湿効果を確認できた。

眼孔内の水分の流れ制御は、ドライアイ緩和だけでなく、目薬の徐放制御や、房水排出の誘起による眼圧制御においても重要であり、電気浸透流を利用する同研究技術が、点眼器や注射器に並ぶ眼孔への注出入法として発展することが期待できるとしている。

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