シリコンによる光子アップコンバージョン技術を開発――低侵襲なガンの光線力学療法へ向けて

Lorenzo Mangolini & Ming Lee Tang/UCR

毒性のないシリコンナノ結晶を用いて、低エネルギーの光子を高エネルギーの光子に変換することに成功した。この研究は、カリフォルニア大学リバーサイド校とテキサス大学オースティン校が共同で行ったもので、成果は2019年12月2日、『Nature Chemistry』に掲載された。

紫外レーザー光などの高エネルギー光は、がん組織を選択的に攻撃できるフリーラジカルを作り出すことができる。しかし、紫外線は組織内に十分に届かず、腫瘍部位に近いところで治療用ラジカルを生成できないという課題がある。一方、波長の長い近赤外光は深くまで届くが、ラジカルを生成するのに十分なエネルギーは得られない。

光子アップコンバージョン――低エネルギーの光子を高エネルギーの光子に変換(長波長を短波長に変換してエネルギー変換に利用する)――はこの問題を克服できるが、アップコーバージョンのためには有毒な材料を必要とし、例えば無毒なシリコンナノ結晶が光子をアップコンバートできることは実証されていなかった。

今回研究グループは、表面には適切な結合構造を持たせたシリコンナノ結晶と特殊な有機分子を含む構造を設計した。このシリコンナノ結晶は、照射したレーザー光のエネルギーを、迅速に三重項状態の周囲の分子に移動することが分かった。「三重項―三重項消滅(Triplet-Triplet Fusion)」と呼ばれるプロセスは、低エネルギーの励起を高エネルギーの励起にコンバートし、ナノ粒子によって元々吸収されたものよりも短い波長、より高いエネルギーで光子を放出する。

このシリコンによるアプローチは環境的に持続可能であり、この成果により、がんの低侵襲な光線力学治療の開発の促進が期待されている。また、太陽エネルギー変換や量子情報科学、近赤外光触媒などにも応用できる可能性がある。

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Making higher-energy light to fight cancer

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