筑波大学は8月7日、圧力分布分析と3次元動作分析の併用により、立ち泳ぎ(巻き足)における上向きの推進力生成メカニズムを解明したと発表した。
水球選手にとって巻き足は、身体を浮かせるための推進力を生み出す必須の技術で、巻き足によって水中で他の選手に乗られても沈まず、様々なプレーを可能にしている。しかし、これまで巻き足によって生み出される推進力を直接分析する手立てはなく、十分な研究は行われていなかった。これは、巻き足における力生成の媒体が流体(水)であり、その非定常性を考慮して直接的に力を分布することが困難であったからである。
研究者らは、泳者の身体部位表面に圧力を計測する小型のセンサーを用い、計測された圧力値から生じた力を推定する手法である「圧力分布分析」を独自に開発した。今回、この技術を水球の巻き足動作に応用し、水の非定常性を考慮しつつ、巻き足中に生じる推進力を分析することを試みた。
実験では、圧力分布分析と3次元動作分析を併用し、巻き足による上向きの推進力生成メカニズムの解明に取り組んだ。男子水泳選手を対象に屋内プールでデータを取得して解析した結果、巻き足中の足底/足の甲(足背)間の圧力差は、足底側にかかる圧力が増加することによって増大しているのではなく、足背側の圧力が低下することによって増大していることが判明した。さらに、推進力は足部がそのピーク速度を越え、減速し始めた時に最大に達した。
これらの結果は、従来の水泳における推進の定説(手足で水を押した作用/反作用で推進力が得られる、速度の2乗に比例して推進力が増加する)だけでは説明できず、動作中の選手の周りに生じる非定常な水の流れ(渦などの乱流)が上向きの推進力の生成に大きく影響していると考えられる。巻き足において効果的に推進力を生み出すためには、ただ勢い任せに水を蹴るのではなく、足部の角度やキックの方向を巧みに調整して非定常な水の流れを上手く利用することが鍵となるようだ。
今後は、技術レベルの異なる選手間の比較を行い、優れた巻き足技術を持つ選手が効果的に推進力を生み出すメカニズムの解明を目指す。体格やパワーで劣っていても、巻き足技術を高め、技術パフォーマンスを向上できる可能性についても研究を進める。