物理学の法則に基づけば、トランジスタのゲート長は5nmが限界だという。実際、市販されている最高級のトランジスタでもゲート長は20nmだ。にもかかわらず、米エネルギー省ローレンス・バークレー国立研究所(LBNL)の研究チームがこのたび、1nm長のゲートから構成される史上最小のトランジスタを作り出すことに成功した。
LBNLの研究チームによるこの発明は、物理学の法則を打ち破るものだ。LBNL材料科学部門のAli Javey首席研究員は「ゲート長は、トランジスタの大きさを定義する指標。今回の研究では適切な材料選択により、1nmのゲートを持つトランジスタの可能性を実証した」と語る。
トランジスタの半導体材料にシリコンを用いると、ゲート長が5nm以下の場合にゲートがスイッチとして機能しなくなる。そこで代わりに、エンジンの潤滑剤として市販されている二硫化モリブデン(MoS2)を使用した。
一般にトランジスタはソース、ドレイン、ゲートといった3つの端子から構成される。電流はソースからドレインへ流れる。そして、印加電圧に対応してオン/オフのスイッチとして働くゲートによって制御される。
シリコン中の電子の流れは“軽く”振る舞い、MoS2に比べると抵抗が小さい。この特性は、ゲート長が5nm以上の場合には大きなメリットとなる。しかしながら、5nm以下になるとトンネル効果という量子力学的な現象が生じるため、ゲートが電子の流れを制御できなくなる。
一方、MoS2を流れる電子は“重く”振る舞うので、MoS2ではゲート長が小さくても電子の流れの制御が可能となる。また、MoS2は厚さ0.65nmという原子レベルのシート状にまで薄くできる上に誘電率も低いため、ゲート長が1nmでもトランジスタ中の電子の流れを制御できる。
次に克服すべき課題は、いかにして小さなゲートを作るかだった。1nmの構造を作ることは簡単ではなく、従来のリソグラフィー技術はうまく機能しなかった。そこで研究チームは、直径1nmの中空円筒状チューブであるカーボン・ナノチューブ(CNT)に着目。CNTをゲートに活用したトランジスタの電気特性を測定したところ、電子の流れが効果的に制御されていることを確認できた。
これほどの成果を出しながらも、Javey氏は「この研究はあくまでも、史上最小のトランジスタというコンセプトを立証したに過ぎない。まだ、このトランジスタをチップに集積していないし、寄生抵抗を減少するための自己整合セルフアライン製造技術も開発できてない」と語る。
だが続けて、「われわれの研究は重要で、もはや5nm長のゲートに縛られることがないことを示した」と今回の研究の意義を述べた。