次世代型リチウムイオン電池とブロックチェーン技術による電池生涯寿命の管理[脱炭素社会の主役、リチウムイオン電池開発の最新事情]

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株式会社スリーダム 取締役副社長 小黒 秀祐氏

脱炭素社会におけるエネルギー基盤を支える次世代型バッテリー

世界各国で「カーボンニュートラル」の実現に向けた動きが活発化し、自動車業界でも自動車の電動化=EVへのシフトが急加速すると見られています。

今回の連載は全3回の構成で、EVのコアコンポーネントであるリチウムイオン二次電池(LIB)を中心に、その歴史から普及のための課題、次世代型電池への取り組みなど、「リチウムイオン電池開発の最先端」を紹介しています。お話は、リチウムイオン二次電池の高性能化や、次世代バッテリーの実現に向けた研究開発を手掛ける、株式会社スリーダムの取締役副社長小黒秀祐氏です。

これまで第1回目は「リチウムイオン電池とEVとの関係」を、第2回は「EVとリチウムイオン電池が普及するための仕掛けと技術的要件」を取り上げてきました。最終回となる第3回目は「次世代型リチウムイオン電池とブロックチェーン技術による電池生涯寿命の管理」についてご紹介します。(執筆:後藤銀河、写真提供:株式会社スリーダム)

――御社が取り組んでいる次世代型電池の研究開発について、お話をお聞かせいただけますか?

[小黒氏]弊社のラインナップには、リチウムイオン電池でありながら、寿命を延ばし、かつ難燃性を高めた「LIBDOM」と呼ばれる電池、金属を負極にしたリチウム二次電池の「MELDOM」、そして同じく金属を負極にした固体電池の「SOLDOM」、この3種類の次世代型電池の開発を手掛けています。

リチウム電池として、第3世代、第4世代は、エネルギー密度を高めるために負極に金属を使うことで高性能化を目指します。こうした電池は、これまで数十年研究されてきましたが、どうしても金属リチウムの針状析出、前回説明したデンドライトの問題が解決できませんでした。ここが我々の持っているスリーダムセパレータの技術が寄与できるところであり、次世代電池の実現に大きく近づいています。LIBDOMはすでに量産フェーズに入っていますし、MELDOMもサンプルとして一部メーカーに出荷が始まっています。

――3種類の次世代型電池には、すべて同じスリーダムセパレータが使われているのでしょうか?

[小黒氏]孔の大きさや膜の厚さなど、電池の構成によってチューニングは変えていますが、基本的な構造は同じものを使っています。もともとスリーダムセパレータは、燃料電池用の隔膜として開発されたものですが、リチウムイオン電池やリチウム金属電池に適用しても、正極、負極を均一に反応させることができます。これにより、リチウムは円盤状の結晶として析出し、針状の結晶にはなりません。

最先端の電池として、各自動車メーカーでも固体電池の研究が進んでいますが、エネルギー密度を高めるために負極を金属にすると、どうしてもデンドライトができるという悩みがあるようです。スリーダムセパレータは、そうした固定電池にも適用できる技術となっています。

――自動車以外の用途としては、どのようなアプリケーションが考えられますか?

[小黒氏]日本ではあまり普及していませんが、ノルウェーやバンクーバーなど海洋交通を主としている地域では沿岸部のNOxやSOxの発生量を抑えるという規則があるため、電気推進式の船舶の普及が進んでいます。弊社ではこの船舶をターゲットにして、アメリカにLAVLE(ラブレ)という会社を立ち上げ、そこで船関係の技術者を集めて、電池を船に載せるための形状や特性、制御技術を開発しています。

また、ドローンもターゲットとして、関連会社においてドローン用に効率の高いモーターを開発し、量産の手前まできています。このモーターと燃料電池を組み合わせて、ドローンによる長距離輸送を可能にするような研究も進めています。

――船舶用、ドローン用の電池では、自動車用とは違う性能が求められるのでしょうか?

[小黒氏]船舶業界は特に安全性について気にしていますね。極端な言い方ですが、自動車なら万一発火しても、燃え広がるまでに逃げることもできますが、海の上はどこにも逃げ場がありません。特に外洋で火災が起きたら助かりませんから、安全性に関しては非常に重視されています。

我々のセパレータは、ある材料を添加することで難燃性を高めることができ、船舶業界からも注目されています。船舶の製品寿命は自動車よりも長く50年以上なので、船舶用の電池も想定寿命が長く、冷却用にエアコンを搭載したり、精密な充放電制御をしながら、長寿命化して大切に使うことになります。船の場合、二次電池だけ運用すると大型になってしまうため、発電機として機能する燃料電池や、太陽光や風力など自然エネルギーを使った発電機と組み合わせて、二酸化炭素の発生を抑えられるような提案を検討しています。

――御社のミッションのひとつに、「バッテリーのライフサイクルを可視化するためのブロックチェーン技術」とありましたが、こちらもご紹介いただけますか?

[小黒氏]第1回でお話したように、LIBのLCA(Life Cycle Assessment:環境負荷評価)を最大化するために、EV用としての一次利用だけでなく、産業用や家庭用として二次利用することを考えています。二次利用まで考えると、その時々でバッテリーにどれ位の価値があるのかを証明することが非常に大切になってきます。例えば中古車を買うときに、車検証や点検簿で使用歴、修理歴などが分かれば安心して購入できるのと同じように、バッテリーを二次利用する場合、どういう過程でどのように使われてきたのか、それらの履歴をすべて残すことで、正しい価値が付けられます。

弊社の子会社のKaulaは、電池の劣化状況をブロックチェーンで吸い上げて、一個一個の電池の履歴データを証明できる、例え山の中で捨てられていてもブロックチェーンに書き込まれたGPSの最新データがあれば場所が分かるというシステムを持っています。電池を長持ちさせて一次利用、二次利用するだけでなく、それを使いこなし、価値として存在証明ができるよう、BRVPS(EV用バッテリー残存価値予測システム)という技術を使っているのが大きな特徴になります。

――二次利用まで考えると、確かに電池の長寿命化と履歴管理は大切だということですね。

[小黒氏]使い終わった電池の状態だけをみて、あとどれ位の寿命があるのかを判定するのはなかなか難しいことなので、やはり最初の使い方からデータを取っておくことが肝要です。また、一次利用先だけでなく二次利用先と同時にリユースについての合意を形成しておくことで、電池の寿命設計、価格の設定が容易になりますから、そこまで含めた形で、BRVPSによってバッテリーの価値をきちんと判断できるようなサービスモデルを構築しようとしています。カーボンクレジットがどれ位プラスになるのかも計算できるので、そうした提案も可能になると考えています。

――ありがとうございます。それでは最後にお聞かせください。大きく変わろうとするこれからの時代をエンジニアが生き抜くために、何が大切だとお考えですか?

[小黒氏]弊社にはひとつの技術に卓越した人材が多くいますが、その中でも、例えばサイクル寿命を2倍3倍にすることで電池の価格をこれ位下げられるかもしれない、それによって世の中がこんなに変わるんだ、という将来像を意識しながら仕事に取り組める人。そして、自分の専門分野だけでなく、様々な領域のプロフェッショナルたちと対等に話し、多くの接点をつくれる人が伸びていくと感じます。

私はこれまで長年LIBの開発に携わってきました。今はこうしてスタートアップ企業に籍を置き、カーボンニュートラルを実現するための製品を開発しています。エンジニアとして大切なのは、目の前の業務課題をこなすだけでなく、例えば自分たちが目指している長寿命化、ローコスト化によってこんな世の中が描けるんだということを常に意識し、先にある目標を達成するために、今は何が必要なのかを考えることです。これからの時代には、自分なりの考えや想いをもって開発に取り組めるエンジニアが求められていると思います。

取材協力

株式会社スリーダム


小黒 秀祐:
1979年松下電器入社、35年間リチウム電池事業に従事。2007年松下電池工業(株)取締役に就任。2009年パナソニック(株)エナジー社リチウムイオン電池ビジネスユニット長として、バッテリーセルを供給する住之江工場の立ち上げなどに従事。2012年パナソニックサイクルテック(株)の代表取締役を経て、2014年9月(株)スリーダム取締役副社長、2016年12月(株)スリーダム代表取締役社長。2018年9月より同社取締役副社長に就任。

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