- 2023-6-2
- 技術ニュース, 電気・電子系
- X線撮影技術, リング型共振器, 位置情報, 光ファイバー, 光子, 名古屋市立大学, 相互作用フリー測定, 研究, 量子光学, 量子光学的手法, 静岡大学, 静岡大学大学院総合科学技術研究科, 非侵襲型X線撮影技術
静岡大学大学院総合科学技術研究科の冨田 誠教授らの研究グループは2023年6月1日、名古屋市立大学と共同で、光を当てないで(物理的相互作用をしないで)物の存在と位置を同時に判定できる量子光学的手法を発表した。光子を1個も当てずに、物体が存在するのみならず、物体の位置情報を100%の確率で判定できる。
物を見るということは、そこに当たった光を捉えるということであり、真っ暗闇の中では物は見えない。しかし近年、観測対象に光子を1個も当てずに、物体が存在することがわかる観測方法が考案されており、量子光学の分野で“相互作用フリー測定(Interaction Free Measurements)”という名前で呼ばれている。
この相互作用フリー測定は、現段階までの研究では、物体の存在を断定することができる確率が低く、また、物体の位置情報を得ることはできなかった。
研究グループは、光ファイバーを用いたリング型共振器を多数列接続することで、光を当てないで(相互作用をしないで)、リング型共振器のどの位置に物体が置かれているかを100%の確率で判定できる量子光学的手法を開発した。
冒頭の図は、リング型共振器を縦に5個配置した構成となっていて、5個の円周のどこか1箇所に物体を配置する。リング型共振器の干渉効果を利用し、このリング型共振器に黄色の矢印で表示された1光子が入射した場合、物体がなかったときにPort6にまで到達する。Port6の光検出器が1光子を検知すれば、100%の確率でこのリング型共振器内に物体がないことを示すことができる。
リング型共振器内のどこかに物体が配置された場合、そのPortから先のリング型共振器の干渉が破壊され、物体より手前に配置された光検出器が1光子を検出する。例えば、Port4とPort5の間のリング型共振器内に物体を配置した場合、1光子をPort4の光検出器が検出するため、100%の確率で物体がPort4とPort5の間に配置されたことがわかる。
リング型共振器を利用することで、物体に埋もれた中から抜け穴を探すような応用もできる。例えば、下記の図では物体(1光子を吸収することで爆発する物体?)を1、2、3、5に配置しており、今回の手法の活用により、光を当てないでどの位置から逃げることができるかを100%の確率で示すことができる。
今回の研究成果は、光を当ててしまうと容易に壊れてしまう分子や生体物質の分析、画像計測への応用に大きく寄与することが期待される。また、将来のより安全な非侵襲型X線撮影技術への貢献も期待される。