- 2023-6-29
- 化学・素材系, 技術ニュース
- ジルコニアセラミックス, セラミックス, 微細組織仮説, 東ソー, 東京大学, 東京大学大学院工学系研究科, 研究, 高強度ジルコニアセラミックス
東京大学大学院工学系研究科のグループは2023年6月28日、東ソーと共同で、セラミックスの概念を覆す、しなやかで割れにくい、金属に匹敵する高い靭性を発現する高強度ジルコニアセラミックスを世界で初めて開発したことを発表した。高強度材料での市場成長に加え、高度な信頼性が要求される広範な分野への利用が期待される。
ファインセラミックスの一種である高強度ジルコニアは、歯科材料、粉砕ボール、装飾材料、光ファイバー用接続部品、産業機器材料等に広く用いられている、代表的な構造用セラミックスとして知られている。材料の力学特性である強度、靭性は、微細組織を構成する結晶相の安定性に強く支配されており、強化機構は応力誘起相変態で理解されている。
ファインセラミックスの中で最も優れた力学特性を有する高強度ジルコニアだが、靭性は金属材料と比較すると劣っている。強度と靭性は、一般にトレード・オフの関係にあるため、強度を低下させずに金属に匹敵する高い靭性を実現することは困難とされていた。そこで、ジルコニアの強化機構を基に、セラミックスの弱点である脆さを克服する微細組織仮説を立案した。
研究グループは、正方晶ジルコニア(1.5Y)の作製に、高強度ジルコニアを得ることが困難とされている1.5mol%のイットリア濃度で取り組んだ。イットリアが均一に固溶したジルコニア粉末を加水分解法で合成し、その粉末の焼結挙動を調べたところ、微細な結晶粒からなる高密度の正方晶ジルコニアが、1300~1400℃で得られることがわかった。
1400℃で焼結させた結果、結晶粒が均一に形成され、イットリウムが結晶粒内に均一に存在していたことから、仮説通りに微細組織を制御することで、低イットリア濃度の正方晶ジルコニアが得られることを検証した。次に、この微細組織の効果を調べるために、1400℃で焼結させた1.5Yの力学特性を評価したところ、従来品のイットリア濃度3mol%の高強度ジルコニアよりも、靭性が4倍近く向上した。
さらに、微量アルミナドープの効果を調べ、1.5Yにアルミナを1mol%ドープさせ(1.5Y1A)、1350℃で熱間等方圧加圧(HIP)処理した。その結果、靭性を低下させずに、曲げ強度を1500MPaに向上することができた。工学材料の靭性-強度の関係を示すAshbyマップに結果をプロットしたところ、今回開発したジルコニアは、3Yや他セラミックスの靭性を大幅に超え、金属に匹敵する高い靭性を示す世界最高性能のセラミックスであることがわかった。
高強度ジルコニアは、高温大気や熱水中の厳しい環境下に長時間さらされると、低温劣化することが知られているが、開発したジルコニアは、従来品の高強度ジルコニアと比べ、靭性だけでなく、劣化耐性も優れていた。
開発品は、高強度材料の市場成長を加速させ、高度な信頼性が要求される広範な分野への展開が期待される。さらに、微細組織設計による次世代の高機能ジルコニア創出に向けた展開が期待される。