理化学研究所は2023年8月21日、同研究所の研究グループが、白金/炭素ナノマテリアル複合体による水素発生触媒を開発したと発表した。
水素は、エネルギーとして使用した際に二酸化炭素を生じないため、次世代のクリーンエネルギーとして注目されている。しかし、水素は石炭や石油、天然ガスといった化石燃料を用いて生産される場合がほとんどで、生産時の副生成物として二酸化炭素が発生してしまう。
このため、水を電気分解することにより、陽極で酸素、陰極で水素を発生させる水電解が有望視されている。
太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギー由来の電源を水電解に用いることで、二酸化炭素を排出しない水素の生産が可能となる。特に、高いエネルギー効率や水素発生効率を示すプロトン交換膜(PEM)水電解は、市場の大きな期待を集めている。
しかし、PEM水電解の水素発生触媒には、高価な貴金属の白金(Pt)が必要となる。このため、同研究グループは今回、少ない白金の担持量で触媒の性能を向上させられる技術の開発を目指し、研究を進めた。
同グループは、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、グラフェン、アセチレンブラックと3種類の炭素ナノマテリアル(CNM)を選び、個別に水分散性白金ナノ粒子(PtNP)と混合した後、超音波処理を施した。これにより、PtNP/SWCNT(C6)、PtNP/グラフェン(Gr5)、PtNP/アセチレンブラック(AB20)の各複合体で構成される水分散液を得ている。
得られた複合体を電子顕微鏡で観察すると、直径約2nmのPtNPがCNMの表面に直接付着していることが判明した。
次に、3種類の水分散液をインクとして使用し、スプレーコートによってPEM水電解の陰極を成膜した。成膜されたPtNP/CNM複合体であるC6、Gr5、AB20に含まれるPt担持量はμgオーダーで、それぞれ6μgPt/cm2、5μgPt/cm2、20μgPt/cm2となっている。
加えて、陰極の裏面に酸化イリジウムをスプレーコートして陽極を成膜し、PEM水電解の電極を作製した。
作製したPEM水電解電極に電圧を加えると、水素発生に伴った電流が生じた。2.0VにおけるC6、Gr5、AB20複合体の質量活性(白金の単位質量当たりの電流値)は、それぞれ89,300A/gPt、40,400A/gPt、17,100A/gPtとなっている。
同発表によると、従来のPt系水素発生触媒と比較して、水素を発生させるためのPt担持量は100分の1程度だという。
また、これらの触媒のファラデー効率は95〜99%で、市販のPt/C触媒の効率と同レベルの水素発生効率となった。発生する気体は、H2とO2がほぼ2:1の割合となっているため、水の電気分解によって生じたことが伺える(2H2O→2H2+O2)。
さらに、常圧、25℃で触媒の安定性を調べたところ、電流密度100mA/cm2の際に150時間連続して水素が生じることが判明した。
今回の発表によると、特にC6のPt担持量(6μgPt/cm2)が、市販のPt/C触媒(2.8mgPt/cm2)の470分の1に留まっている一方で、市販触媒の270倍も高い質量活性を示したという。
また、C6による水素発生にかかる運転コストは5.3ドル(約772円)/kgとなった。同発表によると、米国エネルギー省が作製したPt担持量2mgPt/cm2の水素発生触媒を用いた最新のPEM水電解の運転コストが3.7ドル(約539円)/kg、化石燃料から生産する水素の運転コストが1.5ドル(約219円)/kgだという。