ガラス構造の規則性を数値評価する技術を開発――リング形状の定量評価技術を考案 東北大学ら

東北大学は2023年11月21日、同大学未踏スケールデータアナリティクスセンターと早稲田大学理工学術院、物質・材料研究機構マテリアル基盤研究センター、産業技術総合研究所の共同研究チームが、ガラス構造から抽出したリング形状を定量化し、内在する規則性を数値評価する技術を開発したと発表した。

ガラスの原子配置は無秩序のように見えるものの、放射光施設などでの計測により、隣接する原子間の化学結合長を超えた距離スケールでの規則性が確認されている。このガラスの複雑な構造が、特性の理論的な理解を難しくしている。ガラスにおける構造の規則性が定量的に評価可能となることで、機能性ガラスの合理的な開発に繋がることが期待される。

近年、結晶材料などにおいて、データ駆動科学の普及が進んでいる。これに基づく効率的な材料設計をガラス材料に適用するには、ガラス中におけるリングの構成原子数のみを解析の指標とする既存のアプローチでは限界が生じていた。

同研究チームは今回、材料中の化学結合ネットワークに内在するリング構造の規則性を3次元的に定量評価した。真円度や粗さといった新たな指標を加えたリング形状の定量評価法を考案している。

この技術を、窓ガラスなどに用いられるシリカ(SiO2)のガラスや、SiO2組成を有する複数の結晶の構造解析に応用。ガラスや結晶に含まれるリングの主な特徴として、形状および対称性を網羅的に分析した。

冒頭の画像は、リング構造の形状指標を示したものだ。(a)が形状指標の計算手順、(b)がSiO2のリング形状指標の計算例、(c) がSiO2のガラスと結晶(9種類)の形状指標の分布をそれぞれ表している。

同分析により、ガラス中に数種類のSiO2結晶に似た構造が存在する一方で、ガラス特有の形状を有するリング構造も多く存在していることが判明した。

さらに同研究チームは、リング形状だけでなくリングの向きを自動で決定する計算法も開発。同手法をベースに、「リング周辺の原子の存在確率」を計算する技術を開発した。

結晶(左)およびガラス(右)のリング周辺の原子の存在確率の計算例。
青領域と赤領域は、シリコン原子と酸素原子の確率密度の大きい領域をそれぞれ示している。

同技術を用いたガラスの構造分析によって、ガラス構造においても結晶構造と同様に異方性が存在することが判明した。マクロレベルではガラスは等方的と考えられているが、リング構造の方位を揃えて原子分布を可視化することで、異方性を有する局所構造の特徴が定量的に明らかになっている。

また、ガラスに含まれる規則正しいリングの周辺において、結晶に類似した規則正しい構造秩序が形成されていることも明らかになった。放射光施設などでの計測により確認されている規則性とも密接に関係しており、中距離構造秩序またはFSDP(ガラスの回折実験で観測される特徴的な鋭いピーク)の形成に寄与する構造ユニットを同定した成果となる。

今回開発したリング形状の定量評価技術により、さまざまな条件で合成されたガラス構造の違いや、構造の違いによって生じる物性の変化を捉えることが可能となる。

また、さまざまな実験条件下で合成された材料の構造データや物性データを活用することで、機械学習(人工知能)に基づく未合成材料の物性も予測可能になるとみられる。データ駆動型の高機能性材料の自動探索につながるため、材料開発の加速的な推進が期待される。

関連情報

不規則なガラス構造に潜む規則性を発見! ─ガラスの… | プレスリリース・研究成果 | 東北大学 -TOHOKU UNIVERSITY-

関連記事

アーカイブ

fabcross
meitec
next
メルマガ登録
ページ上部へ戻る