J-PARCの「メインリング」加速器が当初目標を超えるビームパワー760kWを達成 高エネルギー加速器研究機構ら

高エネルギー加速器研究機構(KEK)は2024年1月17日、J-PARCセンター、日本原子力研究開発機構(JAEA)とともに、茨城県東海村の大強度陽子加速器施設J-PARCの「メインリング」加速器で、性能指標である「ビームパワー」が760kWと当初目標を超え、省エネも達成したことを発表した。T2K実験が大きく飛躍すると同時に、ハイパーカミオカンデ計画への道筋を確実にした。

J-PARCは、線形加速器(LINAC)と、3GeV(ギガ電子ボルト)まで加速できるRCS(Rapid-Cycling Synchrotron)と呼ばれる円形加速器、メインリングと呼ばれる円形加速器の3台で段階的に陽子を加速し、ニュートリノ実験施設などに陽子ビームを供給している。

J-PARCでは、陽子をほぼ光の速さまで加速し、素粒子や原子核の未知の現象を捉えるさまざまな実験を実施しているが、実験施設に加速された陽子を供給できる数に実験の成否が大きく依存する。そのため、単位時間あたりにどれだけの陽子を加速できるかという指標の、ビームパワーが重要となる。

メインリングは、前段の加速器からエネルギー3GeVのビームを入射し、30GeVまで加速し、実験施設へ向けてそのビームを1パルス出射する。そして、次のビーム入射のために、電磁石の磁場を3GeV相当まで戻し、次のサイクルを繰り返す。

メインリングのビームパワーを上げるためには、「一度に加速できる陽子の数(パルスあたりの陽子数)を増やす」「繰り返し周期を短くし、ビーム出射頻度を高くする」という工夫が必要となる。加速陽子数を増やすには、陽子の取りこぼし(ビームロス)を少なくする必要があり、加速器を構成する電磁石の磁場および高周波加速装置の電圧などを精密に調整しなければならない。

750kWを当初の目標性能として設計されたシンクロトロン方式の円形加速器のメインリングは、大強度ビーム加速に適した運転条件の探索、ビーム不安定性への対処、ビームロス低減のための機器を追加するなどにより、2019年にメインリングのビームパワーが500kWに達した。

その後、2021年の夏から運転を長期休止し、サイクルの繰り返し周期を2.48秒から1.36秒に短縮する改造を実施。陽子ビームをメインリングに入射する装置、陽子にエネルギーを与える高周波加速装置、陽子ビームを周回軌道とするための主電磁石用電源装置、加速された陽子ビームを利用する実験施設への出射のための機器などを改造し、2022年度からは加速調整運転を実施。2023年12月に、ビームパワーがこれまでの最高となる760kWを達成した。

年度ごとのメインリングの最大ビームパワー

効率的に電磁石にたまったエネルギーを再利用するアイデアにより、メインリング増強前と同等の消費電力で、今回のビームパワー760kWを達成しているため、同じ消費電力で約1.5倍のビームパワーを実現したことになる。

ニュートリノ実験施設では、メインリングにあわせ、二次粒子を集める電磁石(電磁ホーン)などが1.36秒周期で動作するように増強したほか、標的等の装置の冷却も強化。また、放射線遮蔽などの設備も強化し、メインリングの性能を活かして安定的にこれまでよりも多くのニュートリノを実験で利用できるようになった。

将来的には、高周波加速装置を増設し、T2K実験に続く次世代のニュートリノ研究であるハイパーカミオカンデ計画に向けて、繰り返し周期を1.16秒へ短縮することに加え、取り出し陽子数を330兆個へ増やすことを目指す。ビームパワーは、2028年までに1.3MWまで高める計画をしている。

関連情報

J-PARC加速器、ビームパワーを大幅更新し省エネも実現 〜ニュートリノ研究の強力な原動力に~ – KEK|高エネルギー加速器研究機構

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