- 2024-5-20
- 技術ニュース, 電気・電子系
- J-PARC, KEK, ミュオニウム, ミュオン, ミュオン加速器, 名古屋大学, 大強度陽子加速器施設, 岡山大学, 日本原子力研究開発機構, 正ミュオン, 研究, 高エネルギー加速器研究機構
高エネルギー加速器研究機構(KEK)や岡山大学、名古屋大学などの研究グループは2024年5月17日、KEKと日本原子力研究開発機構が茨城県東海村で共同運営している大型研究施設「大強度陽子加速器施設(J-PARC)」で、素粒子ミュオンを冷却し、光速の約4%まで加速することに世界で初めて成功したと発表した。世界で初めての「ミュオン加速器」の実現につながる成果で、研究グループは素粒子標準理論のほころびの検証などへの活用に期待を寄せている。
ミュオンは電子に似た素粒子で、空から降り注ぐ宇宙線に含まれる。X線や電子線より優れた透過力があり、ピラミッドや福島第一原発の内部の透視などに活用されている。
J-PARCでは、1秒間に約1億個ほどのミュオンを人工的に生成できるが、生成されたミュオンは向きや速さがバラバラなため、そのままでは実験に使えない。このため、ほぼ止まるまでミュオンを減速させて、向きと速さをそろえる(冷却する)ことが必要だった。冷却させた後に電場で加速すれば、向きと速さのそろった指向性の高いミュオンのビームとなる。
研究グループが開発した手法では、陽子加速器で生成した光速の約30%の速さを持つ正ミュオンをシリカエアロゲルと呼ばれる材料に打ち込み、シリカエアロゲル中の電子と結びついたミュオニウムという中性原子にしたうえで、レーザーを照射して電子をはぎ取り、正ミュオンに戻す。これによって、光速の0.002%というほぼ停止状態にまで正ミュオンを冷却する。
その後、高周波電場をかけて正ミュオンを加速すれば、加速するほど向きがそろい、飛躍的に指向性が高いミュオンビームが実現する。今回は光速の約4%まで加速できた。
ミュオンの寿命は2マイクロ秒(100万分の2秒)ほどしかなく、素早く加速しないと崩壊してしまううえ、電子より200倍重いため段階的に加速する必要もあるなど、技術的な課題は残っている。しかし、研究グループは「ミュオンの加速技術にめどがついたことで、世界で初めてのミュオン加速器の実現が視野に入った」としており、今後、さらなる技術開発を進め、最終的には光速の94%まで加速することを目指す。