- 2024-8-9
- 化学・素材系, 技術ニュース
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九州大学は2024年8月8日、同大学大学院工学府と東京大学の研究グループが、0.1ミリ秒という短い時間スケールで、渦の発生制御に成功したと発表した。マイクロ流体チップ中に組み込んだオンチップメンブレンポンプを用いて、50から450程度のレイノルズ数に相当する高速流を0.1ミリ秒程度の時間で制御することで、渦の発生を制御できるマイクロ流体システムを構築した。
渦は身近で見られる流体現象で、マイクロ渦の生成は高速な細胞操作や効率的な溶液混合を、生物学や化学の分野で可能にするため、マイクロスケールの重要な現象となっている。しかし、マイクロ渦が発生する時間が1ミリ秒よりも短く、制御が困難とされてきた。
研究では、超高速の流体制御技術をマイクロ流体チップ中に統合することで、渦の発生制御技術の確立に取り組んだ。流体制御技術は、ピエゾアクチュエータの伸長/収縮で、マイクロ流体チップ中のメンブレン構造を押し/引きして、流体を吐出/吸引する。高剛性なガラス製のメンブレン構造の採用により、アクチュエータの高速な伸長/収縮を流体に伝達でき、およそ0.1ミリ秒という極めて短い時間で流速を変化させることができる。
この手法でもたらされる渦の発生制御の応用例として、渦が配管抵抗の原因となることに着目した。順/逆方向の“流体の流れやすさ”を制御できる新しい流体素子、Asymmetric flow resistors(AFRs)を提案した。AFRsは、繰り返しのノズル形状を基本とした流れ方向に非対称な形状で構成されている。
低レイノルズ数(速度が遅い)の流れをここに印加すると、順方向は流路急拡大部で渦が発生し、逆方向は渦が見られない層流環境となる。AFRsは、“順方向は流れにくく、逆方向は流れやすい”方向依存性の抵抗を示す一方、レイノルズ数を高く(流速を速く)すると、順方向の渦は緩やかに成長するが、逆方向は急速に渦が発生し始める。
この急速な渦発生は、より大きな配管抵抗をもたらすことから、AFRsの方向依存性が逆転する。この特性を用いると、可動部の無い流路形状で、流れ方向を切り替えられる。
渦の制御と流れ方向の切り替えの実証で、メンブレンポンプの電圧(流速)を変化させたときの流路中のトレーサー粒子を観察した。渦は低速条件では順方向のみで、高速条件では逆方向でも発生する様子が観察された。これにより、今回提案した手法で渦の発生制御ができることが確認できた。
次に、AFRsの出口でマイクロビーズが搬送される様子を観察したところ、低速条件ではビーズが振動しながら逆方向に搬送され、高速条件では順方向に搬送されたため、流れ方向の切り替えを実証した。さらに、ビーズの振動運動から吐出/吸引操作のレイノルズ数の推定を行ったところ、レイノルズ数を電圧で制御できることが確認できた。
このとき、1回の吐出/吸引操作で最大流速になるまでの時間が0 .125ミリ秒であったため、およそ0.1ミリ秒で数百オーダーのレイノルズ数を制御できることを示した。
また、接続した流量計から搬送流の流量を計測した結果、流れ方向が電圧の増加で切り替わることが確認でき、順/逆方向にそれぞれ最大111マイクロリットル毎分、93.3マイクロリットル毎分の流量で制御できることを示した。
AFRsを用いてマイクロピペットを構成し、高速な流体制御に基づく遊泳細胞の分取実験では、高速/高分解能/大体積な流体制御を克服した。マイクロウェルプレート上を泳ぎ回るミドリムシを単一細胞レベルで分取できる。
研究で創出した渦の発生制御がもたらす新たな流路機能群は、マイクロ流体工学の新しい領域/応用を拓いていくことが期待される。今回提案した新しい流体素子は、マイクロ流体デバイスに複雑な3次元構造を組み込まずに流れ方向をチップ上の駆動源一つで制御でき、マイクロ流体チップの普及に貢献することが期待される。
関連情報
極めて短い時間スケールに、マイクロ渦を作り込む技術の構築に成功! | 研究成果 | 九州大学(KYUSHU UNIVERSITY)