熱伝導度の低減による熱電特性向上のメカニズムを原子スケールで解明 九州大

九州大学は2024年10月18日、走査型透過電子顕微鏡を使い、熱電材料であるテルル化スズ(SnTe)に添加された銅原子の位置を、原子スケールで特定することに成功したと発表した。これによって、多様な銅原子由来の欠陥がSnTeの熱伝導度を低減させ、熱電特性の大幅な向上につながることを解明した。同大では廃熱利用の促進につながる発見だとしている。

熱エネルギーを電気エネルギーに変換する「熱電材料」の研究が世界中で進められており、最近は特に、SnTeに注目が集まっている。SnTeに銅原子を添加すると、電気伝導度を大きく低下させることなく大幅に熱伝導度を低下でき、熱電特性が大幅に向上するという報告もあるが、熱伝導度低下のメカニズムについては十分な解明がされていない。

このため、同大学の研究グループは、特異な銅原子の欠陥が熱伝導率の低下に寄与しているとの仮説を立て、電子顕微鏡による熱伝導度低減のメカニズムの解明を試みた。

その結果、銅原子がSnTeの結晶格子内に固溶し、熱電特性の向上に寄与していることを確認した。さらに、スズやテルルが存在する位置の隙間にも、銅原子が格子間原子として存在していることが分かった。

格子間原子は通常、炭素原子のような小さな原子であることが一般的で、銅原子のような炭素原子に比べて大きい原子が格子間の隙間に存在するとは、これまで考えられてこなかった。

こうした格子間原子は特異な原子と考えられ、電気伝導度と熱伝導度のトレードオフの関係を破り、SnTeの熱電性能の大幅な向上につながったとみられる。

この観察結果を受け、研究グループは、なぜ銅原子が格子間原子としてSnTeに存在できるかを理論的に示すため、密度汎関数法という量子力学の基本原則に基づいた理論によって考察した。

その結果、銅原子は他の第一遷移金属と比較して、格子間位置に存在しやすいことが分かった。さらに、銅原子は隣接する格子間位置に移動する際のエネルギー障壁が、これらの元素の中で最も小さく、SnTeの全域にわたって、銅原子の格子間原子が分散し得ることが説明できた。

研究グループでは、銅を添加したSnTeに含まれる銅原子の位置を原子スケールで特定したことで、革新的な熱電材料の開発が加速すると期待を寄せている。

研究成果は2024年10月4日発行のWileyの国際学術誌「Advanced Materials」オンライン版で公開された。

関連情報

熱伝導度の低減による熱電特性向上のメカニズムを原子スケールで解明 | 研究成果 | 九州大学(KYUSHU UNIVERSITY)

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