生きた真菌を3Dプリント――生分解性をそなえた微生物電池を開発

Image: Empa

スイス連邦材料試験研究所(EMPA)の研究チームは2025年1月9日、生きた真菌を3Dプリントして作製する生分解性の微生物燃料電池(MFC)を開発したと発表した。発電量はそれほど多くはないが、温度センサーなど農業や研究用の小型デバイスに電力を供給できる。

微生物は、他の生物と同様に栄養素をエネルギーに変換しているが、微生物電池はこの代謝エネルギーを利用して電気を生産するものだ。従来、微生物電池は主に細菌が使用されてきたが、今回開発した微生物電池は2種類の真菌を組み合わせて使用している。2種類の真菌は互いの代謝を補う関係にあり、アノードに電子を放出するSaccharomyces cerevisiae(出芽酵母)を配置し、カソードには特定の酵素を産生する白色腐朽菌Trametes pubescens(ヤキフタケ)を用いている。白色腐朽菌は、電子を捕獲して細胞外に伝導する。

電池の部品は、真菌と真菌の栄養になるベースをインクに混ぜて3Dプリントすることで作られる。研究チームによると、3Dプリントされた真菌がよく成長する材料を見つけるだけでも大変な作業だという。しかも、真菌細胞を殺さずに、押し出しやすいインクにしなければならない。もちろん、通電性と生分解性も求められる。

研究チームは、バイオベース素材の3Dプリントに関する豊富な経験をもとに、セルロースをベースとしたインクの開発に成功した。真菌はセルロースを栄養源として使用でき、使用後の電池分解にも役立つ。ただし、真菌が好む栄養素である単純糖質も電池に添加する必要がある。この微生物電池は乾燥状態で保存でき、水と栄養素を加えるとその場で起動する。

この真菌電池は、1個あたり最大出力密度は12.5μW/cm2、最大電流密度は49.2μA/cm2(22kΩ)を達成した。300~600mVを数日間生成し、10~100kΩの外部負荷に対して3~20μA供給できる。4個の電池を並列に接続することで、小型センサーを65時間駆動させることが可能だ。

現在、研究チームは真菌電池をより強力で高耐久性に改善するための検討を行っている。また、電気供給により適した他の真菌類を探すことも計画している。

研究成果は、『ACS Sustainable Chemistry & Engineering』誌に2024年10月15日付で公開されている。

関連情報

関連記事

アーカイブ

fabcross
meitec
next
メルマガ登録
ページ上部へ戻る