愛媛大、地球深部の超高圧下で安定な新しい水酸化鉄を発見

ダイヤモンドアンビルセル高圧発生装置の加圧部

愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター(GRC)の西真之助教らの研究グループは、地球マントル深部の超高温高圧環境で安定な、鉄・水・酸素からなる新しい結晶構造の水酸化鉄の存在を明らかにしたと発表した。水酸化鉄は地球マントル深部で脱水分解するという従来の学説を覆す発見だという。科学雑誌「Nature」の7月3日版(オンライン版)で発表された。

地球内部構造と今回の研究から示唆される地球深部への水の輸送

地球内部に貯蔵できる水の質量は海水の数倍と見積もられている。このため、地球の進化に大きな影響を及ぼしているとされるが、具体的な水の存在量とその循環はまだ解明されていない。

地球表層の水は岩石と反応して含水鉱物をつくり、これが沈み込むことで深部のマントル近くまで水が運ばれることが知られている。マントルは高温高圧となるため、ある深さで含水鉱物が分解・脱水する。もし含水鉱物が分解せずに存在できる温度と圧力条件がわかれば、水がどの程度の深さまで運ばれるか推定できる。

2016年にNature誌で発表された研究では、鉄を多く含む含水鉱物(FeOOH、水酸化鉄)はマントル深部条件下で水素と酸化鉄に分解すると報告している。この先行研究によると、特に鉄を多く含む縞状鉄鉱層はマントル深部に水を運べないということになる。

今回研究を行ったグループは、マントルの主要元素であるマグネシウムとシリコンを多く含み、下部マントルで安定な含水鉱物「H相」を理論予測と超高圧実験により発見し、2014年に発表している。今回の研究では、水酸化鉄の高温高圧下でのふるまいを、第一原理計算(量子力学の基本原理に基づき、実験などにより得られる先験的なパラメーターを使わずに結晶構造の安定性や物性を予測する計算方法)に基づく数値シミュレーションと、地球の中心に相当する高温・高圧を発生できるレーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセルを用いた実験により調べた。

スーパーコンピュータ「京」や愛媛大学の並列計算機を用いた数値シミュレーションの結果は、地下1900km付近に対応する80万気圧において、水酸化鉄がパイライト型と呼ばれる構造に変化することを示唆した。これは水酸化鉄がマントル深部で水素と酸化鉄に分解するという過去の研究結果と異なる結果だった。

そこで同研究グループでは、ダイヤモンドアンビルセルによる高圧発生技術と、大型放射光施設SPring-8の高圧構造物性ビームラインBL10XUに設置されたレーザー加熱システムと放射光X線により、約150万気圧までの条件で水酸化鉄の結晶構造を調べた。その結果は理論予測と同じく、80万気圧程度で水酸化鉄の構造がパイライト型へと変化することを示した。また、様々な温度圧力条件下で測定した試料の体積は、パイライト型構造中の水素の含有を強く示唆していた。このように、第一原理計算による理論的予想が、複数の証拠を含めた実験により証明された。

今回の研究結果によると、水はマントルと中心核の境界付近の2900km程度の深さまで運ばれる可能性がある。水の存在は岩石の溶ける温度を下げるため、マントル最下部でマグマを発生させ、マントル最下部で観測される地震波超低速度層やこの付近に起源をもつマントル上昇流(プルーム)などの原因となっている可能性があるとする。また、中心核の主要物質である溶融鉄への水の溶け込みなど、地球深部の物質や運動の解明に重要な影響を及ぼすとしている。

同研究グループでは、今後さらに研究を進めることで、水酸化鉄とマントル・地球中心核の物質との反応現象が理解されることに期待をかける。また、同グループによる理論計算では、アルミニウムを多く含む含水鉱物も、地球マントル条件より高い圧力下で構造がパイライト型へと変化することを予測している。今後このような極限環境下で安定な含水鉱物の存在が実証されると、天王星・海王星のような氷惑星や、太陽系外惑星の内部での水の存在形態の研究が飛躍的に進展することも期待されるという。

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