中国の研究者ら、体内の酸素で駆動するインプラント可能なバッテリーを開発

CREDIT: CHEM/LV ET AL.

広く利用されているペースメーカーや神経刺激装置などの植込み型医療機器は、従来型の電池で駆動するため、電池切れになると交換のための手術が必要になる。

中国の天津理工大学の研究チームは、この課題を解決するために生体内の酸素で作動する埋め込み型電池を考案した。ラットを用いた概念実証試験により、安定して電力を供給し生体システムに適合することが示されている。研究成果は、『Chem』誌に2024年3月27日付で公開されている。

この電池の電極は、ナトリウムベースの合金とナノ多孔質金で構成されている。金は生体適合性のある物質として知られており、ナトリウムは人体に必要不可欠な元素だ。電極と体内の酸素が反応し、電気が発生する。電池を保護するために、柔らかく柔軟な多孔質ポリマーフィルムで電池を包んでいる。

この電池をラットの背中の皮下に埋め込んだところ、2週間後には1.3~1.4Vの電圧が安定して発生し、最大出力は2.6μW/cm2だった。この出力値は医療機器を駆動するには不十分だが、体内の酸素をエネルギーとして利用できることは実証できた。

ラット生体への影響を調べたところ、埋め込み周辺部位での炎症反応は見られなかった。また電池の化学変化による副生成物は、ナトリウムイオン、水酸化イオン、低濃度の過酸化水素などで、体内で速やかに代謝され、腎臓や肝臓に影響を与えないことも確認した。さらに4週間後には背中の毛は完全に再生し、驚くことに電池周辺の血管も再生した。

埋め込み直後の電気出力は不安定で、安定して出力するには、傷口が治り、電池周辺の血管が再生して酸素が供給されることが必要であるとわかった。このことは、この電池が創傷治癒のモニタリングにも利用できることを意味している。

さらに、この電池は電力供給以外の用途にも応用が期待できる、と研究チームは述べ、「例えば、腫瘍細胞は酸素感受性を持つため、酸素を消費する電池を腫瘍細胞周辺に植え込めば、がんを飢餓状態に追い込むことができる可能性があります。また電池のエネルギーを熱に変換すれば、腫瘍細胞を殺すことも可能です」と説明した。

研究チームは今後、電極材料や電池の設計を最適化することで、電気出力の向上、コストの低下、大量生産を目指すとしている。

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