- 2020-8-23
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- CCD, Emma Pickwell-MacPherson, Nature Communications, ウォーリック大学, シングルピクセルTHzイメージング技術, テラヘルツ光, テラヘルツ波(T線), マイクロ波, マルチピクセルシステム, 学術, 赤外線, 香港中文大学
英ウォーリック大学と香港中文大学の研究チームは、テラヘルツ波(T線)を利用し、高速でコスト効率の高いシングルピクセルTHzイメージング技術を開発したと発表した。従来よりも100倍高速のイメージングができるとしている。プラスチックや衣類を透過する特性を活用して、非侵襲的な産業および医療アプリケーションに適用できる。研究結果は、2020年5月21日付けの『Nature Communications』に掲載されている。
テラヘルツ光は、赤外線とマイクロ波の間の電磁波で、プラスチック、セラミック、衣類といった多くの材料を透過する。また、X線とは異なり電離作用を持たないため、生物学的に非常に安全とされており、セキュリティや医療用スクリーニングに利用できる。一方、水分を含んだものは透過しないことから、生体物質の水和状態の微小な変化が検知可能で、組織マーカーを使わずに皮膚がんの診断ができる可能性がある。
ところが、既存のテラヘルツ技術は、高コストと低堅牢性、使いにくさのために、産業界へはまだ普及していない。病理診断に正確性を必要とする医療界にとっても、コストと操作性に加えて、精密なイメージングに要する時間のために、臨床試験がほとんど行われていないという。
研究チームは、コスト削減と耐久性の向上のため、単一の検出器を利用するシングルピクセルTHzイメージングに着目した。物体を透過したテラヘルツ光は、符号化マスクによって変調されて検出器に達する。CCDのようなマルチピクセルシステムと違って、物体の画像を再構築するために、光の変調と検出を何度も繰り返す必要があるため時間がかかる。しかし、変調ジオメトリと後処理のアルゴリズムを最適化することで、従来のシングルピクセルTHzイメージングよりも高いフレームレートが可能になり、6fps、解像度32×32を達成した。
「まず最適な変調ジオメトリを決定し、次にSN比を改善するためにイメージングシステムの時間的応答をモデリングし、最後に圧縮センシングを利用して計測回数を減らした。事実、我々の研究では、十分なSN比があればデータ取得速度を5倍改善できると示している」と、研究チームを率いるEmma Pickwell-MacPherson教授は語る。
また、このシステムは、サブピコ秒の時間分解能、堅牢性、室温動作が特長だ。コストも2万ドルに抑え、マルチピクセルシステムが35万ドル以上かかる点と比べて手ごろだという。
今後は、SN比の改善とソフトウェアの最適化に焦点を当て、非侵襲的で正確ながん診断技術の確立を目指すとしている。