理化学研究所は2024年4月17日、東京大学や東北大学、高エネルギー加速器研究機構と共同で、イオントラップに捕獲されたトリウム229のアイソマー状態の寿命を決定したと発表した。アイソマー状態のトリウム229は原子核時計の実現に貢献すると期待されており、研究グループは原子核時計の実現につながる成果だとしている。
トリウム229の原子核は、レーザーを照射することなどによって、エネルギーがわずか8.3電子ボルト(eV)の超低エネルギー原子核励起状態(アイソマー状態)にできる。このアイソマー状態のトリウム229を用いることによって、原子核時計と呼ばれる極めて正確な周波数標準が実現できると期待されているが、実現に不可欠なパラメーターである、イオントラップに捕獲されたトリウム229のアイソマー状態の寿命がわかっていなかった。
共同研究グループは、寿命を確定するため、最初にトリウム229イオンを真空中で捕獲する装置を開発。トリウム229イオンを作るためにウラン233を使った。
ウラン233はアルファ崩壊してトリウム229になるが、2%の割合でアイソマー状態のトリウム229になる。このため、レーザーを照射してイオンを発光させ、その様子をカメラで撮影。光る際の周波数の差から、アイソマー状態のイオンを選別した。さらにアイソマー状態とそれ以外のイオンの信号強度の減衰速度の違いから、アイソマー状態の寿命(半減期)を1400(+600/-300)秒と決定した。
原子核時計の実現には、今後、原子核遷移を励起するためのレーザーを作製し、そのレーザーで原子核を励起する技術が必要になる。
研究グループは、これらを数年以内に達成し、原子核時計を実現したいとしている。今回の研究成果は、同日、科学雑誌『Nature』に掲載された。