- 2024-12-13
- 技術ニュース, 電気・電子系
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名古屋大学大学院工学研究科の野呂 篤史講師らの研究グループは2024年12月11日、次世代燃料電池における100℃以上の高温かつ低湿度環境でも良好な伝導率を示す、電解質材料の新設計コンセプトを発表した。今回開発した炭化水素スペーサーを持つホスホン酸ポリマーの電解質膜は、伝導率が120℃、20%RHで従来の4倍となる1.1mS/cmを示している。
水素と酸素の電気化学反応で電気を生成する燃料電池は、反応生成物が水のみのクリーンな発電システムで、すでに燃料電池車(FCV)や家庭用コージェネレーションシステム(エネファーム)で実用化されている。
電解質膜としては、パーフルオロスルホン酸ポリマーからなる膜が広く知られ、70~90℃の高湿度環境で高い伝導率を示し、水にも溶解しない特性を有するが、さまざまな健康問題を引き起こす恐れがあるパーフルオロアルキル化合物(PFAS)でもある。
そこでフッ素を含まない炭化水素ベースのポリマー膜の開発が進められている。例えば、スルホン酸基を有するスルホン化ポリスチレンなどが挙げられるが、こうしたポリマーも100℃以上、かつ低湿度下では水分がほとんど存在しないため、伝導率も非常に低い。
100℃以上の高温、低湿度下でも分解しにくく、良好な伝導率を示す電解質膜として、リン酸をドープしたポリベンズイミダゾール膜が挙げられ、無加湿下、190℃で良好な伝導率が確認されている。しかし、ポリマーとリン酸とが化学結合されておらず、燃料電池反応で生じる水との接触によりリン酸が溶出する。
こうした溶出を防止するには、ポリマーにリン酸のような電解質を直接化学結合させる必要がある。100℃以上の高温、低湿度下でも高い化学的安定性を示すポリマーには、ホスホン酸基を持つポリスチレンホスホン酸などが候補に挙げられるが、低湿度下ではプロトンの移動が制約されて伝導率が低く、ポリマーが高湿度環境で完全に溶解するため、膜としての使用に課題があった。
そこで、ホスホン酸基間でのプロトン移動を容易とする設計を採用。ポリマー主鎖とホスホン酸基の間に疎水性スペーサーを設け、エーテル結合やエステル結合を排除し、高温で強酸性の条件下で分解することがないようにした。
このようなポリマーからなる開発膜は、疎水性スペーサーを有さないホスホン酸ポリマーの膜(A膜)や、市販の架橋スルホン化ポリスチレン膜(B膜)と比較し、温水に浸漬した際の不溶性が高い。120℃、20%RH条件下での伝導率は1.1mS/cmを示し、A膜やB膜より、それぞれ40倍、4倍高い値を示している。
新設計コンセプトにより、100℃超の温度、低湿度環境でもホスホン基の移動の自由度を大きくし、ホスホン酸基間でのプロトン移動がスムーズに生じて良好な伝導性を示したと考えられる。
研究は、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が実施する「燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業」において行われた。名古屋大学は、今回の研究発表と関連した材料について、日本国、並びに海外の4つの国及び地域への特許出願を行っている。今後、研究を引き続き進め、さらなる材料改良により、脱炭素に資する次世代燃料電池の開発に大きく寄与するとしている。
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次世代燃料電池向け電解質材料の新設計コンセプト ~100℃以上の高温・低湿度で良好な伝導率実現、PFAS規制に対応~ – 名古屋大学研究成果情報
Polymer Electrolyte Membranes of Polystyrene with Directly Bonded Alkylenephosphonate Groups on the Side Chains
論文DOI:10.1021/acsapm.4c02688