愛媛大学、理化学研究所、高輝度光科学研究センター(JASRI)などによる共同研究チームは2017年10月6日、結晶中の分子が集団的な変形をすることで「スピン液体」状態となることを見出したと発表した。分子結晶がスピン液体という伝導性や磁性などに不思議な性質を持つ状態となる原因を明らかにする成果だ。
電子には、電気伝導を担う電荷と、磁性を担うスピンという属性がある。2つの磁石が反対向きになるように電子がペアを組むと安定するが、正三角形の格子の各頂点に電子が1個ずつ位置する場合、特定の2つの電子のペアを作れないなど、電子スピンが整然と秩序化できないスピン液体となることは予測されていた。しかし理論的には解明されていなかったという。近年、有機物を主成分とする分子結晶が低温でもスピン液体の性質を保つ可能性が報告され、この物質を用いて、なぜスピンが秩序化しないかの解明が可能となった。
今回の研究では、スピン液体の特性を示す分子性結晶である金属ジチオレン錯体塩の電荷と分子の振る舞いに着目。金属ジチオレン錯体分子は、分子や電子が何個集まるのか、分子同士がどの程度近いのか、など電子のペア形成を調べるのに適しており、分子周辺の電子の密度と、分子が変形する様相を光を使って計測した。
測定の結果、分子は柔軟なので2個・4個・8個といった集団同士で絶えず組み替わることがわかり(格子自由度)、また分子の電荷量も一定ではなかった(電荷自由度)。これは、分子の集団同士の組み換えに連動して、電子も複数種のペア同士で組み替わることを意味する。
さらに、結晶中の金属ジチオレン錯体分子が2個・4個・8個と集まっても、電子が収容される分子軌道のエネルギーは、互いの集団間でほとんど変化せず、遷移金属と同様、どの軌道に電子が収容されるかの任意性(軌道自由度)が分子結晶にもあることがわかった。スピンだけでなく軌道・格子・電荷がそれぞれ自由度(任意性)を持つため、互いの組み替えが低温でも維持できるのが分子結晶のスピン液体の特徴だという。
加えて、3個の電子が正三角形からずれていても、この組み替えによりスピン液体の性質が保持される。また、1個1個の電子スピンが無秩序に存在するよりも、限定的でも秩序化すればエネルギーが下がるため、スピン液体は安定して存在できる。これらの性質は、過去の報告で指摘された特性をうまく説明できるという。
同研究グループでは、今回の成果は高温超伝導の解明だけでなく、電荷とスピンが独立して伝導するデバイス材料の研究開発などの進展にもつながるとしている。