有機半導体の形状記憶現象を解明――分子マシンへの応用可能性

米イリノイ大学化学生体分子工学Ying Diao教授が率いる研究チームは、有機結晶の形状記憶効果を引き起こすメカニズムを解明したと発表した。電気エネルギーを使う無機トランジスター技術と比べ、より低エネルギーで可逆的な形状記憶現象を導電体プラスチックなど有機半導体で実現できる可能性があり、低消費電力エレクトロニクス、医療電気デバイス、多機能性記憶材料開発へもつながる成果だ。本研究は『Nature Communications』に論文「Rotator side chains trigger cooperative transition for shape and function memory effect in organic semiconductors」として2018年1月18日に掲載されている。

血栓治療に用いられるステントと呼ばれる金属管は、詰まった血管を拡張して血栓を流すデバイスで、形状記憶技術が使われている。この形状記憶という性質は特に金属学において研究されてきたもので、そのメカニズムはマルテンサイト変態という相転移と密接な関連があることがわかっている。マルテンサイト変態は、固相中での結晶構造の相変態の一種で、原子は拡散することなく協調的に移動することでマクロな形状を変えることなく相転移する。この状態で熱を変化させると、低エネルギーで高速かつ可逆的な形状変化が起こり、これが形状記憶現象と呼ばれている。ところがこの形状記憶現象は金属材料では見られるものの有機材料ではほとんど観測されず、これまでその発生機構もあまり研究されていないという。

研究チームの大学院生Hyunjoong Chung氏によると、偶然大きな有機結晶を作成したことから、熱を加えたときの結晶の挙動観察を思い立ったという。顕微鏡法、単結晶X線回折法、ラマン核磁気共鳴分光法および分子シミュレーションを組み合わせ、回転する側鎖が協調的にマルテンサイト変態を引き起こすことを発見した。Chung氏は、「分子のレイヤー全体が協調して動き、結晶に形状記憶現象を生じさせていることが観察できた。これは有機結晶で観察されたことのない現象だ」と説明する。

現在、研究チームは有機材料の形状記憶効果のトリガーに熱を利用しているが、今後は光や電界、機械的な力によっても形状記憶効果を引き起こせるかを実証するという。さらに、材料の分子構造を調整して、形状記憶効果のメカニズムと発生する原理を研究するとしている。

Diao教授はこの研究成果を、「有機半導体のマルテンサイト変態を引き起こす分子設計ルールを確立した」ものと説明し、この形状記憶現象が、2016年にノーベル化学を受賞した「分子マシンの設計と合成」にも適用できる可能性にも言及している。

関連リンク

関連記事

アーカイブ

fabcross
meitec
next
メルマガ登録
ページ上部へ戻る