ビールの麦汁から作ったフィルムが、火星基地を太陽の熱から守る

米コロラド大学ボルダー校のSmalyukh教授らの研究チームは、透明で断熱性の高いエアロゲルをビールの麦汁から作製した。冷暖房効率を高めるために地球上のビルはもちろん、月や火星など昼夜の温度差の大きい環境下の建造物にも利用できるという。

一般的なエアロゲルは、ゲル中のナノ粒子が非常に曲がりくねった網状構造を形成し、数十億もの微細孔に空気を保持することで重量の90%を空気とし、軽さと断熱性を実現している。しかし構造が不均一なため、内部で光が散乱してエアロゲルが曇って見えることから、「凍った煙」とも呼ばれている。

そこで研究チームは、より透明なゲルを得るためにセルロースを利用した。セルロース分子の結合を制御して均一な格子状に配置することで、光の散乱を防ぎ、ガラスの約100倍も軽く、透明で柔軟なエアロゲルフィルムの作製に成功した。耐熱性も高く、手の上にフィルムをのせて火をつけても熱さを感じないという。

さらに研究チームは、より安く手軽にセルロースを入手するため、ビール工場で不要になった麦汁や、醸造の副産物として生じる廃液に着目。これらの液体に特殊なバクテリアを加え、セルロースを生成することにした。資源のリサイクルに貢献するだけでなく、製造コストの削減にもつながるという。

このようにして作成したエアロゲルは、太陽からの熱を蓄え、温室のように部屋を暖めることができるため、たとえば月や火星の住居に利用することも可能だ。透明性と断熱性が評価され、将来の宇宙旅行で役立つ可能性のある技術として、2018年6月にNASA主催のiTechコンペティションにも選ばれた。

もちろん宇宙分野だけでなく、地球上でも用途はある。米エネルギー省によると、窓の多くは断熱性に乏しく、アメリカ国内の建物の冷暖房にかかるエネルギーのうち、およそ4分の1が窓の断熱性を補うために使われているという。研究チームは、今回開発した断熱シートを窓に貼るだけで、窓交換の費用を抑えるとともに、エネルギー効率の飛躍的な向上が期待できると、そのメリットを説明する。

現在セルロースの生成には約2週間かかっているが、研究チームは、窓メーカーと協力して製造期間の短縮方法を模索している。将来的にはホームセンターで買えるような安価な剥離型フィルムを目指しているという。また、窓に限らず、断熱性の高い車や服、消防士の保護具など幅広い用途を考えている。



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Cheers to that: Beer waste transformed into energy-efficient window covering

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