炭素二原子分子の常温常圧での化学合成に成功、実験化学者と理論化学者の論争に終止符 

東京大学は2020年5月1日、信州大学と理化学研究所と共同で、室温における炭素二原子分子(C2)の化学合成に成功したと発表した。実験化学者と理論化学者間で論争となっていたC2の化学結合について、電荷シフト結合を含む4つの結合が存在することを初めて実証したという。また、C2が常温常圧下において自然と重合し、炭素ナノ材料が合成されることを発見したとしている。

C2は過酷な条件でしか発生しないと考えられてきており、高エネルギー状態での発生が主に研究されてきたが、こうして発生させたC2は二重結合(一重項ジカルベン)か三重結合(三重項ビラジカル)として振舞うことが知られてきた。ところが2012年、イスラエルのグループが高精度量子化学計算を用い、C2が基底状態において四重結合(一重項ビラジカル)性をもつと提唱した。これ以来、実験化学者と理論化学者の見解は真っ向から対立していた。

今回、研究者らは実験条件(高エネルギー状態)と理論条件(基底状態)の違いに注目し、室温(あるいはそれ以下)でのC2の発生法に取り組んだ。その結果、超原子価ヨウ素の超脱離能を活用した分子設計によって、常温常圧でのC2の化学合成に成功。さらに、常温常圧下に発生させたC2の性質を各種捕捉実験などにより調べ、一重項ビラジカル(電荷シフト結合)を含む四重結合性も実験的に証明し、理論化学者の予測を再現した。

C2はこのビラジカル性により、空気中の酸素や不純物ですぐに捕捉/不活化されてしまう。そこで研究者らは、不活性ガス(アルゴン)雰囲気下で無溶媒/常温常圧条件にてC2の発生を試みた。その結果、煙を上げて黒色固体が生じることが発見された。黒色固体を詳細に調べたところ、固体のトルエン抽出液からは、C60に対応する分子イオンピークがMALDIーMSによって観測された。このとき、C70以上の高次フラーレンは検出されていなかった。

次に、トルエン不溶の黒色固体について、アモルファス炭素部分を酸化処理により除去した試料をラマンスペクトルやHRTEMを用いて精査。その結果、「2次元グラフェンシートが密に詰まったグラファイト」と「カーボンナノチューブとカーボンナノホーン」を観測した。これらはC2が常温常圧下でナノカーボンの起源になり得ることを証明した初めての結果だという。

グラファイトが含まれる(a)Raman スペクトル、(b)HRTEM 画像((002)面)、(c)HRTEM画像((100)面)、(d)カーボンナノチューブが含まれるHRTEM画像

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