マイクロ流体デバイスで自然界でクモが行う紡糸プロセスを模倣 理化学研究所と京都大学

理化学研究所は2024年1月31日、同研究所環境資源科学研究センターおよび京都大学の共同研究グループが、自然界でクモが行う紡糸プロセスをマイクロ流体デバイスを用いて模倣することに成功したと発表した。

クモの糸は、人工繊維とは異なる力学特性に加えて、生体適合性や生分解性を有する。このため、クモの糸を人工的に生産するさまざまな試みが行われている。

一方で、クモ糸の力学特性は、スピドロインと呼ばれるタンパク質からなる、複雑な階層構造に大きく依存している。このため、クモ糸の力学特性の再現は、これまで困難とされていた。

同研究グループは今回、クモの紡糸腺の複雑な機能を模倣すべく、マイクロ流体デバイスを設計した。

同デバイスは3つの流入口(冒頭の画像での1、2、3)を備えており、これらには可溶性タンパク質前駆体(スピドロイン)溶液、イオン交換勾配を作り出す液-液相分離(LLPS)トリガー、pH勾配を作り出す繊維化トリガーがそれぞれ導入される。

また、同デバイスでは、3種のプロセス(冒頭の画像でのセクションA、B、C)を経てスピドロインの自己集合が可能となる。

セクションAでは、可溶性スピドロイン溶液は、ナトリウムイオンと塩化物イオンが豊富な溶液からカリウムイオン、リン酸イオン、および関連イオンが豊富な溶液へと置換される。これにより、可溶性スピドロインが不溶性繊維に変化するための中間段階であるLLPS現象が促進される。

セクションBでは、pHが弱塩基性から弱酸性に変化。網目状の微小な繊維(ナノフィブリル)構造体が自己集合する引き金となる。

セクションCでは、スピドロインの分子構造の変化を誘起するとされるせん断応力を加える。スピドロインからなるナノフィブリルを配向(繊維方向と同じ方向に沿って並ぶこと)させることで、繊維化が実現する。

同研究グループは、さまざまな顕微鏡を用いてマイクロ流路内での段階的な繊維形成を観察した。スピドロインの希薄な溶液から、LLPSによるスピドロインの液滴に凝縮(セクションA)。pH5までの酸性に暴露(セクションB)することで直径5〜10μmの繊維が形成。それらが出口に向かって伸びている(セクションC)ことを確認している。

クモ糸の自己組織化における各段階の顕微鏡画像

今回作製した人工クモ糸は、完全な水中条件で生産したにも関わらず水に不溶で、蒸留水中でも有意な構造変化が起こらなかった。

また、作製した繊維では、繊維軸方向に配向した束状のナノフィブリルからなる構造が確認された。これは、クモ糸の力学特性を再現するにあたって必須となる階層構造の形成を示唆する。

今回作製した繊維

加えて、ラマン分光法や広角X線散乱(WAXS)といった技術により、形成された繊維の構造を解析。マイクロ流体システムのβシート構造を誘起する能力を評価した。

その結果、マイクロ流体システムにおける繊維の組み立てが、無秩序なタンパク質構造からβシートに富んだ構造への移行を伴っていることが確認された。βシートの組成が、デバイスに掛かる圧力と直接比例している。

さらに、スピドロインのレオロジー解析を行ったほか、繊維化プロセスにおけるマイクロ流体デバイス内の物理的、化学的パラメータの変化を計算。せん断応力とβシートの形成との比例関係を確認した。

マイクロ流路内のせん断応力による人工シルク繊維のβシート構造の生成

今回の研究結果は、人工クモ糸の大量生産につながることが期待される。

また、今回の手法により、環境への負荷が少ない工程で高分子材料を成形加工することが可能となった。さまざまな高分子素材の環境低負荷な製造に寄与することが期待される。

関連情報

マイクロ流路を利用したクモ糸形成プロセスの再現 | 理化学研究所

関連記事

アーカイブ

fabcross
meitec
next
メルマガ登録
ページ上部へ戻る