東京大学は2019年2月20日、産業技術総合研究所(産総研)との共同研究により、MXene(マキシン)と呼ばれる層状化合物の層間ナノ空間にリチウムイオンとともに閉じ込められた水分子が、「負の誘電率」を持つことを見出したと発表した。
省エネルギー社会における蓄電デバイスとして応用範囲の拡大が期待されている電気二重層キャパシタ(Electric Double-layer Capacitor、以下EDLC)は、電気二重層と呼ばれる電子とイオンがペアになる現象により電気を蓄えている。そのため、より効率的に電気を蓄えるためには、微小な空間(ナノ空間)で高密度に電子とイオンを閉じ込める必要がある。これまで、イオンをナノ空間に閉じ込める際にイオンに結合している水分子も一緒に閉じ込められることが知られていたが、この水分子の特性は不明なままであり、水分子が共存するナノ空間において効果的に電子とイオンを閉じ込める方法論も明らかになっていなかった。
今回、東京大学の研究グループが、MXeneを電極材料として各種アルカリ金属イオンを用いたEDLCを作成し電気二重層容量を測定したところ、MXeneの層間ナノ空間(< 1 nm)にイオンと水分子を閉じ込めると、リチウムイオン > ナトリウムイオン > カリウムイオン > ルビジウムイオンの順で容量が増加し、水和イオン半径から予測される傾向とは逆になることを発見した。
この異常な現象を解明するため、産総研の研究員がMXeneの層間ナノ空間にイオンと水分子を閉じ込めた状態について古典溶液論と第一原理計算に基づいた計算シミュレーションを実施したところ、層間ナノ空間に生じる静電ポテンシャル分布がイオン種に大きく依存することを見出した。これらの実験とシミュレーションから得られた容量と静電ポテンシャル分布の相関を詳細に解析したところ、リチウムイオン、ナトリウムイオンと共に閉じ込められた水分子が負の誘電率を持つことを見出した。一方、水分子との相互作用の弱いイオンであるルビジウムイオンやカリウムイオンを閉じ込めた場合、水分子の負の誘電率は確認されなかった。
さらに、この負の誘電率を示すリチウムイオンを使ってEDLCを作製したところ、負の誘電率を示さないイオンを使った場合の1.7倍もの電気を蓄えることができた。層間ナノ空間に閉じ込められた水分子の負の誘電率とそれに伴う電気二重層容量の増加は、さまざまな組成を持つMXene(Ti2CTx, Ti3C2Tx, Mo2CTx)だけでなく、炭素のみで構成されるグラフェンや層状化合物MoS2といった他の層状化合物でも実験と理論により確認され、普遍的な現象であることを見出した。
今回発見された水分子の負の誘電率は、従来未開拓だったナノ空間における水分子の異常な物性を明らかにしただけでなく、この負の誘電率を利用することにより少ないエネルギーでイオンを高密度に蓄えることが可能となるため、高エネルギー密度EDLCの開発につながることが期待できるとしている。