鉄表面における腐食プロセスを最先端機器で解析――大気中のCO2吸着が重要な役割

大気や水に曝される鉄表面の、高感度高精度の最先端解析機器による観察。/Copyright 2021 American Chemical Society.

ミシガン工科大学MTUの研究チームが、大気や水にさらされる鉄の表面において、どのように錆や腐食が進展するのかを解析する、最先端解析機器を用いた手法を開発した。深刻化している橋梁や下水道など老朽化インフラの損傷を防止し、耐食性耐久性に強い新たな設計法を構築する上で、重要な指針が得られると期待される。研究成果が、米国化学会の『Physical Chemistry A』誌に2021年9月7日論文公開されている。

鉄釘を雨ざらしにすると錆が生じる様子は、肉眼でも簡単に見ることができる。金属材料の腐食は、古くから存在する問題だが、日本では高度経済成長期に集中的に整備された道路、橋梁、河川、下水道などの社会インフラが、大気や雨水による金属材料の腐食に起因する耐久性劣化により、今後急速に老朽化することが懸念されている。

アメリカでも2016年ミシガン州フリントで、古い鉛製水道管の腐食により、水道水が高濃度の鉛で汚染され多くの健康被害が発生し大きな問題となった。現在バイデン政権が、道路や橋梁の修復を含めた大規模なインフラ投資計画法案の成立を目指しており、鉄系材料を中心とした金属の腐食が、古くて新しい技術課題として浮上しているとも言える。

MTUの研究チームは、大気および少量のCaCl2またはNaClを含有する液体にさらされた鉄系材料表面に生成する皮膜層を、最新の高精度高感度解析機器を駆使して解析し、腐食と錆の発生を防止する条件を明確化することにチャレンジしている。

酸化生成物および腐食進行の解析には、偏光変調赤外反射吸収分光法(PM-IRRAS)、全反射減衰フーリエ変換赤外分光法(ATR-FTIR)、X線光電子分光法(XPS)、原子間力顕微鏡(AFM)など、いずれも表面感受性の高い最先端の解析機器を活用する。その結果、鉄表面皮膜層に発生する酸化および腐食は、液体中に存在するカチオン(Ca-やNa-などの陽イオン)の種類に影響され、CaCl2含有液の方がNaCl含有液よりも早い。また、大気中に含まれるO2およびCO2が吸着されて、CaCl2含有液ではCaCO3が生成し、NaCl含有液ではFeCO3が生成する。

一方、大気中のO2およびCO2にさらされない条件、即ち液体に完全に浸漬された条件では、いずれの液体でもγ-FeOOHとFex(OH)yCO3の不均一混合水酸化物が生成し、カチオン種の影響が無いことが判った。このようなことから、カチオン種は、大気中のCO2の吸着など、腐食の初期過程において重要な役割を果たすことが明らかになった。

研究成果は未だ基礎的な段階と考えられるが、今後解析法が更に進展することによって、橋梁や下水道配管など老朽化したインフラの管理改善や新しい設計手法の構築、増加が懸念される大気中CO2の影響抑制や水質監視手法に有益な可能性を与えることが期待されている。

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