固体から液体への相変化を利用した、高効率の新しい冷却手法

Credit: Jenny Nuss/Berkeley Lab

大雪が降る前に道路に塩をまいておくと、氷が形成される時期が変わる。この基本概念を応用した新しい冷却加熱方法が開発された。米エネルギー省ローレンス・バークレー国立研究所の研究者らが「イオン熱量冷却(ionocaloric cooling)」と名付けたこの新手法についての詳細は、2022年12月22日付で『Science』に掲載された。

モントリオール議定書キガリ改正のような気候変動に対する目標を各国が達成するには、現在の冷媒に代わる解決策を見つけることが不可欠だ。キガリ改正では、代表的な代替フロンの1つであるハイドロフルオロカーボン(HFC)の生産量と消費量を、25年間で少なくとも80%削減することを求めている。

HFCは、二酸化炭素より数千倍も効率的に熱を閉じ込めることができ、強力な温室効果ガスの性質を持っている。現在、商工業用冷凍設備や、家庭用冷蔵庫、冷暖房機では、地球温暖化係数が高いHFCなどのガスを冷媒として用いる、「蒸気圧縮冷凍サイクル方式」が一般的だ。

それに対し、イオン熱量冷却は、冷媒の代わりに固液成分を用いることで、冷媒として使われているガスが大気中に放出される危険性を排除する可能性がある。また、固体冷却は吸熱や放熱の効率があまりよくないが、イオン熱量冷却ではイオンを使って固体から液体への相変化(相転移)を起こしており、液体を使うことで熱の吸収と放出が容易になる。

イオン熱量冷却は、物質が相変化するときにエネルギーが熱として蓄積、あるいは放出されることを利用している。相変化とは、固体である氷が液体の水へ変化するような、物質の状態の相互変化のことで、固体の物質が溶解して液体になるときには周囲から熱を吸収し、逆に凝固するときには熱を放出する。

イオン熱量サイクルでは、塩から出るイオンの流れによって相変化と温度変化を起こす。実験では、ヨウ素とナトリウムで作った塩と、リチウムイオン電池によく使われる有機溶媒であるエチレンカーボネートが使用された。システムに電流を流すとイオンが動き、材料の融点が変化する。固体材料が溶けて液体になるとき周囲から熱を吸収し、逆に、イオンを取り除くと結晶化して固体になり熱を放出する。最初の実験では、1ボルト未満の電圧で25℃の温度変化を示し、他の熱量効果技術で実証されたものを上回る温度上昇となった。

研究チームは、イオン熱量サイクルの基礎となる理論を示し、この技術は、現在、大多数のシステムで使用されている気体冷媒の効率に匹敵する、あるいは上回る可能性があると算定した。

研究チームは、この技術をどのように拡張して、大量冷却をサポートできるか、また、温度変化量の改善、効率向上が可能かを明らかにするため、プロトタイプの研究を続けている。そして、イオン熱量冷却が、いつの日か、地球温暖化係数が高い冷媒に取って代わることができ、安全で効率の良い冷暖房を家庭に提供できることを期待しているという。

関連情報

Berkeley Lab Scientists Develop a Cool New Method of Refrigeration – Berkeley Lab – News Center
Ionocaloric refrigeration cycle | Science

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